第6話 英雄の右腕として
「もうすぐです!この道を真っ直ぐ行けば私の村に着きます!」
イアが走りながらそう叫んだ。
ラリスの温もりをさっきよりも感じない。
後もう少しだから…ラリス…!
抱きかかえてる腕に力を入れ直して森の出口をめがけて走る。
ドンッ……
今の音はなに…?
微かな音が一瞬だけ聞こえてきた。
走りながら後ろを向いても何もいない。
上を見上げると、黒い点のようなものが見える。
あれは……まさか…!
「イア!止まってっ!」
「え?」
イアの腕を掴んで思いっきり自分の方に引っ張る。
その瞬間、目の前に大きな鉄球が地面に落ち、地面がえぐれた。
「まだ生きていたんですね?その女」
その鉄球の上にはギーラが立っていた。
まさか、追いついてくるなんて…!
「でももう死にそうじゃないですか」
「うるさいっ!そこをどいてっ!」
「みすみす敵を逃がすバカがどこにいます?まあでも、行かせないこともないですよ?」
ギーラはイアを指差す。
「その子を渡してくれれば通してあげますよ」
イアを…?そんなことできないっ。
でも、ラリスが助かるには……。
心臓がドクドクと激しくなり始める。
「そんなこと…」
「分かりました」
私の言葉を遮って前に立ったのはイアだった。
「イア!待って!」
「私なんかのためにナヒロさんの仲間を死なせるわけにはいきません」
「でも…!」
「いいんです、ナヒロさん」
イアが向ける顔は目が据わっていた。
覚悟…いや、希望を失った、そんな目。
イアはギーラの隣に立った。
「よろしい、じゃあここを通してあげよう」
ギーラが手をかざすと鉄球は消えた。
「ほら、早く行かないとお仲間さんが死んでしまいますよ?」
この男…!
今は、ラリスを早く助けないと…!
私は2人の横を通り過ぎる。
「まあ、そんな都合のいい話はないですけど」
ギーラは私たちに向かって手の平を広げる。
「約束と違いますっ!」
「黙れ、奴隷が口出すんじゃねえよ」
バチンッとギーラはイアの頬をはたいて、イアは倒れてしまう。
「さようなら、愚かな小娘たち」
ギーラの手から鉄球が放たれる。
「ナヒロさんっ!!」
イアの声で後ろを向くと、鉄球はもうすでに目の前まで来ていて、刀を盾にして受けても衝撃は受け切れなかった。
「っ…!」
私はラリスを庇いながら地面に転がる。
転がった先には木があり、頭からぶつかってしまった。
フラフラする、視界もぼやけて……そんなこと言ってられない。
私はラリスを抱きかかえて、立ち直す。
目の前には家が何軒か見える。
衝撃で村の前まで来たらしい。
ここがイアの村……。
もう朝日が昇り始めていて、外は少し明るかった。
診療所はどこ……。
私は近くの家の扉を叩く。
「誰だい!こんな時間に!」
家からは太ったおばあさんが出てきた。
「あんたら、血だらけじゃないか!」
「あの…診療所は…どこですか…?」
「あそこだけど、ちょっと待ってな。おい、旦那!!この子の面倒見てやって!!その子は私が診療所に届けるよ」
おばあさんにラリスを渡すとすぐに走って向かってくれた。
これで、ラリスはだいじょ…ぶ……。
もう…限界……。
私はその場に膝をついて壁に寄りかかる。
もう目を開ける力もなく、そのまま瞼を閉じた。
「なんでナヒロはこの本が好きなんだい?」
懐かしい声。
「だって、かっこいいもん!わたしもえいゆうになりたいっ!」
「そうか、ナヒロならなれるさ。自慢の娘だからな」
父の手は固くて頭を撫でられるのが好きだった。
お父さん……。
そんな昔の光景が一気に真っ暗になる。
目を開けると、視界に入ったのは見慣れない天井だった。
ここは……。
「うっ…」
頭に痛みが走り、手で擦ると包帯が巻かれていることに気がついた。
コンコン、とノックされ扉が開く。
「おお〜!目が覚めたかい!」
おばあさんはお盆に乗せたお粥を持って寝ているベッドの横に座った。
「あの…助けてくれてありがとうございます」
「あんたらが来たときはびっくりしたよぉ、2人とも血だらけでねぇ」
「ラリス…私の仲間は無事ですか?」
「ああ、無事さ。後で見舞いに行ってやんな。先生が驚いてたよぉ、よくこんだけ血を出して死ななかったもんだって」
「そう…ですか……」
良かった…!ラリス…!
肩から力が抜けるのが分かる。
「とりあえず今はご飯食べな」
「あ、ありがとうございます…!」
おばあさんからお粥を受け取った。
スプーンですくって冷ましてから口に運ぶ。
めっちゃ美味しい…!
「そんな急がなくても大丈夫だよぉ」
「すごく美味しいです!」
「はは、良かった良かった!」
久しぶりにまともなご飯食べたなー。
食のありがたみを感じる。
「それであんたら、冒険者だろ?なんでこんな辺境の村に来たんだい?」
「色々あって、イアって子に教えてもらったんです」
「……イアちゃんにかい?」
「知っているんですか?」
「……ああ、まあね」
「……あの、イアの家族ってどこに住んでるか分かりますか?」
「あの一番端の家だよ」
「ありがとうございます」
私が立ち上がろうとすると、おばあさんに止められる。
「まだ動いていいわけないだろう?!」
「でも仲間のお見舞いも行きたいし、話さなきゃいけないこともあるので。大丈夫です!激しく動くわけではないですから」
おばあさんは納得はしてなかったが、私から手を離してくれた。
おばあさんと旦那さんにお礼を言って家を出る。
確か…診療所はあそこだよね。
診療所に入って、受付でラリスの仲間だと伝えると病室に案内された。
「ラリス……」
まだラリスは目を覚ましてないらしい。
点滴に繋がられた姿がとても痛々しかった。
ベッドの横に座ってラリスの手を握る。
「ラリスだったら…もっと上手くやれてたのかな。イアも救えてたのかもしれない」
全然だめだ、私。
ラリスも、イアも守れなかった。
「……ナヒロ?」
うつむいていた顔を上げると、ラリスが薄く目を開けていた。
「ラリス…!目が覚めたんだね…!」
「うん、見ての通り」
「ほんと、心配かけすぎだから!絶対追いつくって言ったのに!」
「【魔法】を侮っていた」
「でも……助かって本当に良かった…!」
「あの子はどうなったの?」
「……私たちを逃がす代わりに捕まった」
「そう」
ラリスはじっと私を見てくる。
「ナヒロはこれからどうするつもり?」
「え?」
「ナヒロのことだから助けに行くと言うと思った」
「……ラリスならどうする?」
「私なら…ここで装備を整えて早急にこの村を出る。これ以上踏み込むのは危険すぎるから」
「……ラリスらしいね」
「でも、ナヒロが救いたいと言うならそれに従う」
「どうして…?」
「ナヒロが言ったから。私はナヒロの右腕、なら頭はナヒロ自身。決定権はナヒロにある」
「ラリスは怖くないの?1回死にかけたんだよ?」
「怖くないと言えば嘘になる。けど戦えないわけではない。それに、相手の能力は大体把握できたからもうこんなヘマはしない」
すごいな…ラリスは。
さっきまでクヨクヨしていたのが恥ずかしい。
もう迷わない、自分がやりたいことをしよう。
「助けたい」
私はラリスの手をぎゅっと握った。
「……分かった」
「ありがとう…!ラリス」
ラリスが私の額に指を押しつける。
「ただし、もう少し慎重に動くこと。今回の森の襲撃も慎重に動いていたらもしかしたら逃げる時間がもうちょっとあったかもしれない」
「うっ…」
「目的を見失わないで、分かった?」
「は、はい……」
「分かったならいい」
ラリスの話し方は淡々としていて、それが逆に怖かった。
でもラリスの話すことには嘘偽りがない。
だから信用できる。
怒られているはずなのに、なぜか嬉しかった。
「ラリス、今度は勝とう」
私は拳をラリスの前に突き出す。
ラリスも軽く拳を合わせた。
「うん」
返しがラリスっぽいな。
でも、今はそれが安心する。
「じゃあ準備をしよう」
ラリスが立ち上がろうとするのを慌てて止めた。
「なに立とうとしてるの?!まだ全然血が戻ってないんだよ!?」
「大丈夫、動ける」
「動けるかもしれないけどって…点滴取ろうとしないでっ!」
どうにか説得して、準備は私がすることになった。
全く…昨日、あんな弱ってたのが嘘みたい。
一応、先生にラリスが病室を抜け出さないよう言っておこ……。
ラリスの冒険譚 @nekoka_1
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