第4話 びしょびしょになって、変な子に会う
町を出てから数日、私たちは川辺に来ていた。
ナヒロは靴を脱ぎ、素足を川に浸している。
「気持ちいいぃ〜」
それを横目に、焚き火で使えそうな落ち葉や枝を集める。
「ラリスも入ったらー?」
「大丈夫」
今日はここで野宿することに決めていた。
もう夕日が落ちかけていて、空が半分、夜になっている。
「ナヒロ、後で食糧取ってきて」
「はーい」
ナヒロの声がリラックスしているせいか緩く聞こえる。
火はまだつけなくていいか。
荷物の近くに座り地図を開く。
今、ここら辺…明日か明後日には次の村に着きそう。
食糧もちょっと節約しないときつい。
「ラリスー!ちょっと来て!」
ナヒロが手招きしている。
地図を折りたたんでしまい、ナヒロの方に向かった。
「おりゃ!」
ナヒロは急に振り返ったと思ったら、水が飛んでくる。
おかげさまでびしょびしょになった。
夜になり少しだけ身震いがする。
「ら、ラリス…?もしかして…怒ってる?」
目を閉じて立ち止まっているのが、そう見えるのだろう。
怒ってないけど、むかつきはした。
その質問には答えず川に近づいた。
手を大きくふりかぶって、ナヒロに思いっきり水をかける。
「お返し」
ナヒロも…多分私以上に濡れた。
「私こんなかけてないんだけど!」
「やったことは同じ」
「へーそう言うんだ……じゃあー」
ナヒロがまた水をかけてくる。
かかる寸前で避けた。
「避けないでよ!」
「さっきは不意打ちだったから、普通なら避ける」
悔しくなったのかナヒロが水をすくおうとしたとき、うわっと体がよろける。
すぐに手を伸ばすと、ナヒロは掴んだ。
けど私の力は敵わなく、2人で川に倒れる。
もうかけても変わらないくらい濡れてしまった。
「いったー……ラリス大丈夫?」
「大丈夫。ナヒロは?」
「こっちも平気、ちょっと調子乗りすぎたね」
あはは、とナヒロが頭をかきながら笑った。
私は立ち上がって川から出る。
「今火をつけるからちょっと待ってて」
荷物からタオルを出してナヒロに渡す。
これじゃ食糧を取ってくるのは無理か、仕方ない。
今日は予備のツナ缶にしよう。
木を組んで、麻縄に火打ち石で火をつける。
「ラリスって火つけるの上手いよね」
「冒険者なら誰でもできる」
「私は無理だったなー」
何も言えない。
ナヒロに前やってもらったら、火打ち石にひびが入った。
よくそれで冒険者できるな、とある意味感心したのを覚えている。
「また今度教える」
「ありがと、でもラリスいるなら覚えなくても……」
「覚えて」
「はい……」
「ナヒロ薪割ってきて。後、枝と落ち葉も拾ってきてほしい」
「了解」
順調に火は育ち、そこにポールを立てて上着をかけていく。
上着だけだとあれか。
服を脱いで下着以外は全部ポールにかけた。
「なっ!?なんて格好してるの!」
ナヒロが顔を赤くして薪を落としていた。
「服乾かしてる」
「人来たらどうすんの!」
「気にしない」
「気にしろっ!」
ナヒロがブツブツ言いながら、薪を拾い直して側に置いてくれた。
「ナヒロも脱いで」
「私も下着姿になれと?」
「うん」
「絶対嫌」
「風邪引く」
「そんな格好になるよりマシ」
そんなに嫌なものなのか。
絶対風邪の方が辛いだろう。
「分かった」
無理矢理乾かすつもりもないので、私が折れた。
「タオル羽織ってよ」
「寒くない」
「目のやり場に困るの!」
「どこに目を向けてもらっても構わない」
「ラリスはね!私の話!」
ナヒロはタオルを手に取って私にかける。
「ラリスって変なところでずれてるよね」
「冒険者なのに火つけれない人もずれてる」
「うっさい!」
空はもう真っ暗。
星が散らばっていて、それぞれが小さく輝いている。
1つのツナ缶を半分に分けて食べていた。
「そういえば、ラリスってどうして冒険者してるの?」
「……母親を探している」
「お母さん?行方不明ってこと?」
「分からない」
「え?」
「私は母親に会ったことがないから」
「じゃあ探しようないじゃん」
「うん、でも聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「それは……」
どうして私がうまれたのか。
そう言おうとしたとき、森の奥から小さく足音が聞こえる。
ナヒロも聞こえたのか、刀の柄に手をかけていた。
音は段々と近づいてくる。
ざざっ!
草をかき分けて音の正体が現れた。
「あだっ!」
何かに足を引っかけてそのまま顔から地面に突っ込んだ。
「女の子…?」
ナヒロはもう柄から手を離していた。
手を伸ばして「大丈夫?」と声をかけている。
「た、助けてくださいっ!!」
「え?」
「ナヒロ、奥からまた足音が聞こえる」
今度は1人じゃない。
少なくとも3人はいる。
短刀を構えておく。
ナヒロがその子の前に立って刀を構える。
あの姿勢は……。
「ナヒロ、待っ……」
「龍爪っ!!」
私の止める声は間に合わなかった。
木々を斬り倒しながら、斬撃が森の奥に突き進む。
奥からぐえっと声が聞こえた。
ため息を小さく吐いて、私は助けを乞う子を見る。
その子は、奴隷が着るような服一枚だけ着て、手を覆うような枷で拘束されていた。
白い髪を肩まで伸ばし、目は澄んだ空のような色をしている。
どう見ても普通の人じゃない。
「あなた、何者?」
「え…えっと……」
「とりあえず手当てしようよ」
ナヒロがそう言うので、手当て箱を渡した。
ナヒロが手当てをする間に斬撃の跡へ向かった。
そこだけ開けていて、改めてナヒロの剣撃がすごいと思う。
歩き進むと3人の男が気絶していた。
1人の男に触る。
腕を見ると蛇とドクロのマークが描いてある。
これは…盗賊か。
3人をロープで木に巻き付けてから、その場を離れる。
盗賊に追われていた。
でもあんなに厳重な拘束を盗賊は用意できない。
じゃあ誰かに雇われた。
嫌な予感しかしない。
ため息を吐きながら2人のところへと歩いた。
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