第3話 急なお誘いは英雄の右腕
次に目が覚めると、もう刃の交わる音はなかった。
ベンチから立ち上がって、医療所を出ようとすると、看護師さんからナヒロの無事を聞かされる。
「そう」
「もう病室に移動されてますから、面会できますよ」
「ありがとう」
私はそのまま医療所を出る。
看護師は面会しないのかと、困惑していたが今はするつもりはない。
生きてるならそれでいい。
町はもういつもの日常に戻りつつある。
私はそのままギルドへ向かった。
ギルドは予想以上にうるさかった。
冒険者たちはビールの入ったグラスを片手に馬鹿騒ぎしている。
受付の人が私を見つけて駆け寄ってくる。
「良かったぁ!無事だったんですね!」
「うん」
受付の人は私の手を握って、目が少しだけ潤んでいる。
「これは何の騒ぎ?」
「ギルドマスターが今回戦った冒険者に報酬を払ったんです。銀貨200枚も!」
なるほど、それでこんなお構いなしに飲んでいるわけか。
私も早く報酬を貰おう。
そのために起きてすぐここに向かったのだから。
「私も報酬を貰いに来た」
「分かりました、そしたらギルドマスターのところまで案内しますね」
「なんで?」
「直々にお話がしたいそうなんです」
報酬を貰えればそれでいいんだけど。
まあ、金貨2枚のためなら許容できる。
案内されるまま、私はギルドの奥へ入った。
階段を登り、他のとは少し高級感のある扉に立つ。
受付の人が扉を開けて、中へ入った。
「よく来てくれたね、ラリスさん」
ギルドマスターは少ししわのあり、容姿がとても整っている男で、昔は冒険者もやっていたらしく、目元に傷があった。
「今回の襲撃からこの町を守ってくれてありがとう…!この町に平和が戻ってきたのは、君たちのおかげだ」
「私は取引に応じただけ」
「ふっ、そうだったな。君はそういう人だ」
ギルドマスターは金貨を2枚、前にある机に置く。
「今回の報酬だ。受け取ってくれ」
私は机に近づいて、金貨を受け取って自分の巾着に入れる。
「ありがとう、じゃあ私はこれで」
ギルドマスターは何か言いかけて止める。その代わり、少し微笑みながら一言だけ呟いた。
「君たちはこの町の英雄だよ」
そういうのは、ナヒロに言ってほしい。
そう思いながら、部屋を出る。
医療所に戻って、看護師に言われた病室の扉を開ける。
そこにはベッドに横たわるナヒロがいた。
私に気づいて、こっちを向く。
「生き返ったんだ」
「勝手に殺さないでよ」
「死にそうだったから」
「ラリスも包帯まみれじゃん」
私はベッドの横に座る。
「勝ったんだね」
言っていることは嬉しいことなのに、声音は暗かった。
「うん」
「……ラリスは、この戦いに意味があると思う?」
「意味?」
「うん、目を覚ましてからずっと考えてた。ゴブリンたちと戦うのは避けられたんじゃないかって」
「避けれたとは思う」
ゴブリンは単純だ。
襲ってきた者を敵と見なして襲う。
逆に言えば襲わない、つまり敵対意識を向けなければ襲ってくることはない。
「原因は多分騎士団」
「……どうせあのナルシストが変なことしたんでしょ」
「分からない、実際見たわけじゃないから」
「絶対そう!!」
「たとえそうだとしても戦ったことは変えられない。今考えても意味はないと思う」
「……そうだね」
ナヒロはまだ納得していない。
それが露骨に顔と声に出ている。
人の愚痴を言えるくらいに元気ならもう大丈夫だろう。
「私はもう行く」
「え、ま、待って!」
席を立つと、ナヒロは慌てて私の手を引っ張る。
引っ張ろうとして、前屈みになってしまいお腹が痛むのかもう片方の手で抑えていた。
「傷口開くよ」
「う、うるさいっ!いっ…!」
バカなのだろうか。
大きな声を出せばお腹が痛くなるなんて容易に想像できるだろうに。
「それで、なに」
「……これからどうするの?」
「これから?」
「その、町を出るつもり…?」
「うん」
元々ここには資金調達のために寄っただけ。
金貨2枚は十分すぎる。
「やっぱりそうだよね……。1人で?」
「うん」
「そっか、じゃあ1つ話したいことがある」
ナヒロの眼差しから真剣さが伝わってくる。
「私が英雄になりたいってこと、前に言ったよね?」
「うん、聞いた」
「でも英雄は1人じゃなれない。だから……、ラリスに私の右腕になってほしいっ!」
なぜ急に…いや、意識がなくなる前、なんかそれっぽいことを言っていたか。
それでもよく分からない。
なんで私なのか。
「その、黙られると困るんだけど……」
「ごめん、なんで私を選んだのか分からないから」
「理由か…そんな深い理由はないよ、ただ一緒に冒険してみたいって思っただけ」
「ならなぜ右腕にならなきゃいけないの?」
「そこはただの勘、ラリスになら背中を任せられるってそう感じたからかな」
そんな自信満々で言われても。
勘で背中を任せられても困る。
「今、答えを決めなくてもいいから考えてほしいな」
するりとナヒロの手が離れる。
そもそも冒険者になった目的が違う。
でも、ナヒロくらいの実力者が仲間としているのならこれからの旅も楽になるかもしれない。
私の目的のためにも……。
「いや、時間はいらない。やろう、英雄の右腕」
「ほんとっ!?」
「なんで驚くの?」
「いや、渋ってたから」
「私にも旅をする目的がある、そのために有益かどうか考えていただけ」
「そっか、まあそれでもいいよ」
ナヒロは手を伸ばして拳を突き出す。
「これからよろしくね、ラリス」
私も少しだけ手を伸ばして自分の拳を突き合わせた。
「よろしく」
「よし!なんか次の旅がワクワクしてきた!」
「……ここはいつ退院できるの?」
「確か…1ヶ月後……」
1ヶ月も待てない。
私は部屋の扉を開ける。
「2日後、ここを出るから準備して」
「え?」
「食糧とかの準備は私がしておくから」
それだけ言って、部屋を後にした。
資金は潤沢にある。
医療所を出てすぐ、旅に必要な物を買うためにお店へ向かった。
2日後の朝、私の部屋にはパンパンに中が入っているリュックが2つある。
食糧も買ったし、新しい短刀も買えた。
それ以外にも、旅に必要な物と使えそうな物は一式買えた。
それでもまだ金貨1枚残っている。
これは貯蓄しておこうと、巾着に入れてリュックの奥底へしまう。
自分の宿を出て、医療所に向かった。
ナヒロの病室に入るとそこにはいなかった。
どこに行った。
病室の窓は少し開いていて、そこから空気を切る音が聞こえてくる。
窓から外を見ると、ナヒロが素振りをしていた。
「何してるの?」
「ん、ラリス!来てたんだ」
「様子見に来た、それは?」
「今日、出発するんでしょ?体訛ってるから少しでも戻しとこうと思って」
「傷は?」
「大丈夫!もう心配いらないよ」
ナヒロのタフさに感心してしまう。
まだ動くだけでも辛いはずだ。
それなのに、ナヒロは素振りをしてケロッとしている。
「そう。旅の準備はできた。ナヒロは何か欲しい物ある?」
「うーん、特にないかな。刀も変える気はないし」
「分かった」
「いつ出発するの?」
「夜にする。入口には受付の看護師さんがいるから、窓から逃げる予定」
「りょーかいっ」
「じゃあまた夜に」
医療所を出て、自分の宿舎に戻る。
ベッドに横になると、視界には天井だけが映る。
今日でこの町も終わり。
もうあの魚の塩焼きが食べれない、それだけ残念だ。
次の町でも美味しい塩焼きがあればいいけど。
そんなことを思いながら、夜が来るのを待った。
日も沈み、月明かりが町を照らす。
町が静寂に包まれている中、私とナヒロは町の外へ続く大通りを歩いていた。
「意外と簡単に抜け出せるんだね」
「そもそも抜け出す人なんていないからだと思う」
「ふっ、確かにね」
ナヒロはさっきから私を見ては不思議そうな目をする。
「その、さ…」
「なに?」
「なんでリュック2つ持ってるの?1つくらいなら私も持てるよ?」
今私は前と後ろに1つずつリュックを背負っていてサンドイッチされている。
ナヒロには早く傷を治してもらいたい。
そこそこ重たい荷物は負荷がかかってしまう。
それは良くないと判断してこうしてる。
「大丈夫」
「でも申し訳ないんだけど」
「そう思うなら、早く傷治して」
「傷治るまで待たなかったのはラリスでしょ」
「私と旅したいと言ったのはナヒロ」
「はぁ…分かったよ、降参」
町の入り口に近づくと、1人の人影が現れる。
「おいおい、つれねぇなぁ?別れの言葉も言わせてくれねぇのかよ」
人影の正体はガギオンだった。
「寂しくなったの?かわいいね」
「うるせぇよ、ていうかお前はもう動いていいのか?」
「まあ、良くはないけど大丈夫」
「はぁ…ほんとお前らバケモンだな」
ガギオンは私に視線を向ける。
「あーなんだ、色々あったけどよ、なんだかんだ楽しかったぜ」
「そう」
「相変わらず素っ気ねぇなぁ」
私はまた歩き始める。
ナヒロはため息を小さく吐いて、その後をついていく。
少し歩いて、また立ち止まり、ガギオンの方を向いた。
「色々ありがとう」
ガギオンは目を見開いて、へっ、と笑った。
「おうよ!」
私とナヒロは暗い道を歩き進む。
けど、月明かりに照らされていて自然と怖くはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます