確か、上野だったと思う。
当時は濃い闇とむやみな明るさが溶け合えず、ただ雑多に混ざっているだけだった。
駅付近の路上に、筵を敷いて座っている片足のない物乞いの男がいた。
無関心な、もしくは無関心さを装う人々は、皆一様に視線をそらしていたのを記憶している。
幼い私を連れた祖父もそうだった。
暴力で解決するのは、戦争だから。
暴力を振るうだけでは解決できなくなってからは、自らの命で。
それが是とされた時代だ。
玉砕せずとも、心は死ぬ。
鴨下の命を現実につなぎ止めていたのは祖母の素麺か、はたまたレイテの赤土か。
鴨下の、そして作者の問いかけに、私たちはいつまでも考え続けなければいけない。