第2話:違和感
いや、まだ確証はないのでおそらく、だけれども。
そういえばこの神社は“伊月神社”だ。ということは、ここは。
「やくもっ!またせちゃってごめんね、さむかったよね」
そんな声を背中で聞きながら、やはりと確信する。
幼い舌ったらずな口調ながらも、柔らかさのなかに凛々しさを含んだ声。そして八雲への気遣いをたっぷり込めた言葉。
振り返らずとも彼が誰なのかわかった。
八雲の力のせいでふたりはお互いの記憶を失ってしまって……というそこそこ重めかつおいしい設定が大盛の男の子だ。この神社の跡取り息子でもある。
ただ、気になることがある。乙女ゲーム内との相違が、今わかるだけでもふたつあるのだ。
本来の『
ランドセルを背負ったままここにいるということは、今の八雲は伊月神社で暮らしているわけではなさそうだ。それに、小学校に通えるということは能力も抑えられているということでもある。
「あの女の子、すっごくきれいだったわ……」
ほう、と息を漏らしながらうっとりと言う友達、
ただ、彼女のその容姿もまた乙女ゲームとの相違点のひとつである。
幼少期の八雲は真っ黒な髪をしていて、瞳の内側で輝く黄金色ももっと柔らかかった。私が知る、乙女ゲーム内の八雲の髪が銀髪になるのは能力を封印し、幼いころの記憶をまるっと失った小学校六年生ごろ。
しかし、その銀髪も毛先はグラデーションがかかったように黒くなっており、黒髪の名残を感じるようなものだった。先ほど見た、透けるような美しい銀髪とは違う。
風に舞う銀糸に黒の残留を見つけることはできなかった。もしかしたら髪の内側に色の残りはあるのかもしれないけれども、彼女に声をかけることすらできない自分はそれを確認するすべはない。
ゲームの展開が前倒しになっているというよりは八雲そのものが違う道を進んでいるような、そんな違和感を感じつつ、もしもそうなら自身の理想が叶うかもしれないと邪な考えが頭を過ぎる。
「あ……もう、美琴ちゃんのおうちね」
思考を巡らせつつお喋りに興じていると、いつのまにか家の前に着いてしまっていた。
明日も学校で会うことができるのに名残惜しそうにしてくれる彼女が可愛くて思わず頰がゆるむ。
「ほんとう。水瀬とお話してるとすぐだね」
「ふふ!うれしい。じゃあ……また明日ね」
「うんっ!また明日ね」
ひらりと手を振りながらそう言うと、水瀬は後ろ歩きで手を振りながら歩き出す。
このあたりは住宅街、この時間の車通りは少ないもののないわけではない。宅配のトラックなんかが通ろうものなら、小柄な彼女はその存在に気付かれない可能性もある。
そのような歩き方は危ないとしか言いようがなく、思わず「前向いて歩いて!」と叫んでしまったけれど、彼女はどこか楽しそうに微笑んだ後に立ち止まった。そしてこちらに向けて大きく手を振り、回れ右をして家の方に歩き出す。
彼女の癖のない黒のストレートヘアは陽の光を受けるとすこし青っぽく輝く。
その背中を眺めるのが、好きだ。
「また明日、学校でね!」
大きな声で叫ぶと彼女は一度振り返り、また手を振ってくれた。
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