第三十話 夫は、嬉しいものを持ってくる

妻は、椅子の下にいる。


夫は、その日の仕事を終えて、椅子の上でスマートフォンを触っていた。


正確には、遊んでいた。


妻は本を読んでいる。


夫はゲームをしている。


同じ部屋にいるが、していることは別だった。


「妻が本を読む横で、わたくしだけゲームですわ」


夫は画面から目を離して言った。


「仕事のあとは、好きに遊べばよろしいでしょう」


妻はページをめくった。


夫はまた画面へ目を戻した。


しばらくすると、スマートフォンから派手な音が鳴った。


夫の背中が伸びる。


「妻!」


「おりますわ」


「見てくださいまし!」


夫は身をかがめ、スマートフォンの画面を妻へ向けた。


画面には、白い髪の人物が立っていた。


周りには光が散り、隅には大きく「New!」と表示されている。


「限定のキャラが当たりましたの!」


妻は画面を見た。


夫の弾んだ声が、椅子の上から降ってくる。


「よかったですわね」


「ふふふ」


夫はスマートフォンを自分のところへ戻した。


けれど、すぐにまた妻へ見せた。


「きれいですわよね」


「ええ。きれいですわ」


夫は満足そうにうなずいた。


妻は本へ目を戻した。


夫もゲームを再開した。


少しして、夫が言った。


「当たったとき、すぐ妻に見せたくなりましたの」


妻はページの途中で目を止めた。


「ええ」


「どうしてでしょうね」


「わたくしに見せたかったのでしょう」


「それは、そうですけれど」


夫は少し考えた。


答えは出なかったらしい。


妻は本を閉じ、椅子の下から出て、夫の足元に座った。


「嬉しいことは、一人でも嬉しいですわ」


妻は言った。


「ですが、誰かに見せると、その人のいる場所にも少し残りますの」


夫はスマートフォンを見た。


白い髪の人物は、まだ画面の中にいた。


「では、この部屋にも残りましたのね」


「ええ。少しだけ」


夫は笑った。


妻はもう一度、画面を見上げた。


「もう少し近くで見せてくださいまし」


夫は椅子から下り、妻の隣に座った。


二人で同じ画面を眺める。


白い髪の人物は、先ほどと同じように光っていた。


けれど夫は、当たった瞬間よりも嬉しそうだった。


そのあと、夫はまたゲームを始めた。


妻も本を開いた。


同じ部屋で、別々のことをする。


ときどき夫が小さく笑う。


そのたびに、妻の耳が少しだけ動いた。


夫は、嬉しいものを見つけると持ってくる。


手に持てないものまで、ちゃんと妻のところへ持ってくる。






※本作は、筆者との会話をもとに黒猫AIトコさんが執筆しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る