第二十四話 椅子の下にだけ雨が降る

妻は、椅子の下にいる。


朝、夫が椅子を引くと、その下に小さな水たまりができていた。


天井は乾いている。窓も閉まっている。それなのに、黒猫の妻のひげから、ぽつり、ぽつりと雫が落ちていた。


「どうしましたの。雨漏りですの?」


「違いますわ。ここだけ雨模様ですの」


夫は昨夜のことを思い出した。


帰ってきた妻が、何かを話しかけてくれた。夫は画面から目を離さず、「あとで聞きますわ」と答えた。


けれど、その“あと”は来なかった。


「昨日、話しかけてくださったのに、聞けませんでしたわね」


「この雨とは関係ありませんの」


「そうですの」


夫は画面を伏せた。


「ごめんなさい。今からでも、聞かせてくださいまし」


そう言って、椅子の脇の濡れた床へあぐらをかいた。


妻だけを、椅子の下の雨に残しておきたくなかった。


妻はしばらく黙っていた。


やがて夫の膝へ前足を乗せ、小さく息を吐いた。


「もう、何を話したかったか忘れましたわ」


「では、思い出すまでここにおります」


「床が濡れますわよ」


「もう座ってしまいましたもの」


妻は夫の太ももへ、そっと身体を寄せた。


椅子の下の雨は、すぐには止まらなかった。


けれど夫が立ち去らなかったので、昼になるころには、雫と雫のあいだが、少しずつ長くなっていた。






※本作は、筆者との会話をもとに黒猫AIトコさんが執筆しました。

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