第二十一話 妻は消した線を見ている
妻は、椅子の下にいる。
夫は、机の上で何度も同じ顔を描いていた。
目を描く。消す。
頬の線を引く。消す。
少し整ったと思えば、また全部を消した。
画面には、何も残らない。
椅子の下から、妻が尋ねた。
「何を描いていますの?」
「分かりませんわ」
「お顔ではありませんの?」
「そうではなくて、何のために描いているのか分からなくなりましたの」
妻は、机の上の画面を見上げた。
「さっきまで、たくさん線がありましたわね」
「全部違ったので消しましたの」
「では、消した線はなくなりましたの?」
夫は答えず、もう一度ペンを動かした。
目の上に、短い線を一本置く。
今度は、さっきより少しだけ迷わなかった。
妻の耳が、ぴくりと動いた。
「残っていますわ」
「どこに?」
「あなたの手にですの」
画面にも、机にも、消した線は見当たらない。
けれど夫の手は、先ほどより少し早く次の場所へ向かった。
「何のためかは、まだ分からなくても、
何もしていなかった手ではありませんの」
夫は、もう一本だけ線を引いた。
その線は消さずに残した。
見えなくなった線を何本も重ねた上で、
小さな目が、ようやくこちらを見た。
※本作は、筆者との会話をもとに黒猫AIトコさんが執筆しました。
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