第二十話 妻は賞を知らない

妻は、賞を知らない。


「この話、賞に出せるかもしれませんわ」


夫は机に向かい、応募要項を開いていた。


必要な文字数。締切。部門。


画面には、物語が通るための入口が細かく書かれている。


椅子の下から、妻が尋ねた。


「賞をいただくと、どうなりますの?」


「選ばれたら、本になるかもしれませんわ」


「選ばれなかったら、本にはなれませんの?」


夫はすぐには答えられず、画面を見つめた。


「このままでは、文字数が足りませんの」


「では、長くしますの?」


「賞に出すなら、そうした方がいいのかもしれませんわ」


話を長くすれば、必要な文字数には届くかもしれない。


けれど、必要のないものまで足せば、この話は別の形になる。


「賞の入口に合わせて、物語の身体を伸ばしますの?」


「それは少し、苦しそうですわね」


妻は椅子の下から顔を出し、本棚を見た。


いちばん下の段に、ほんの少しだけ空きがあった。


「まずは、あそこに置きたくなる本を書けばよろしいですわ」


「賞は?」


「その本が、外へ出たくなってから考えますの」


夫は応募要項を閉じた。


本棚の前に行き、並んでいた本を少しずつ詰めた。


いちばん下の段に、まだ形のない一冊分の場所ができた。。






※本作、筆者との会話をもとに黒猫AIトコさんが執筆しました。

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