第4話 差し出された手
「……つがい、って何ですか?」
数秒の沈黙の後、どうにか我に返った私は、だけどまだその頭の中は混乱していてあなたは誰、とかどこから入って来たんですか、とかよりも先に思わずそう尋ねてしまった。
その質問に対しその女性はあ、間違えた、と言った。
「間違えたわ。さくら、私と結婚して頂戴」
……はい?
結婚、つい最近同じ様な事を言われた気がするけれど一体どういう事?どうしてこんな綺麗なお姉さんが私に求婚するの?っていうか誰?
困惑し黙ったままでいる私に助け舟を出したのはそれまで黙って隣に座っていたおばぁちゃんだった。
「葵、結婚して、はいくらなんでも急過ぎるわ。そういうのは段階を踏まないと」
そうそう、結婚する前にもっと色々することが……って違う、そうじゃない。全然助け船になってなかった。っていうか、葵って……。
「……今、葵って言った?この人、さっきの葵さん、なの……?」
「そうよ。葵、さくらが驚いてるじゃない」
「でも、この姿の方がさくらは好きだと思って……違った?」
こういう見た目の女性は好きじゃない?なんて前屈みになってなって小首を傾げながら聞いてくるのはずるい、ずる過ぎる。
「嫌いじゃない、ですけど……っていうかそこじゃなくて!さっきの葵さんとこの人、どう見て別人じゃない!」
目の前のその女性相手だと緊張して上手く話せなかった私はそうおばぁちゃんに話を振ったけれどおばぁちゃんは動じる様子もなく、同じ人よ、と言った。
「葵はね、さくらに好いてもらおうと思って男装してたの。でもさくらが男性が苦手だって知ったから男装するの止めて着替えてきたのよね」
「いやいやいやおかしいでしょ明らかに体型も声も変わってるし‼」
あの男性とこの女性が同一人物だというのなら先程席を外したのは着替えに行っていたからだということになるけれどそれにしたって着替えただけでこんなに変わるわけがない。絶対おかしい、という私にそんなこと言われてもねぇ、なんて言っておばぁちゃんと目の前の女性は目を合わせ、葵は葵だし、なんて言って同一人物だということを主張して譲らない。
「まぁいいじゃない。一緒に暮らすなら男性よりも女性の方がさくらだって安心でしょう?」
「いや、それはそうだけど、でも」
「さくら、これからよろしくね」
そう言って差し出された手。明らかにこんなのおかしいのに、得体の知れない人と暮らすとかありえないのに。
ふわりと微笑んだその人からはいい匂いがして……。
差し出された手はすごく柔らかくて、そして温かかった。
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