第7話 青いビー玉
「カで始まる気がする」
その言葉を最後に
世界は白く染まった。
ショウは目を覚ます。
天井
扇風機
聞き慣れたセミの声。
いつもの朝だった。
だが
「夢じゃないよな……」
もう誰もそう思っていなかった。
昼
いつもの公園、
三人は集合していた。
そして
「これ見ろ」
タクヤがポケットから何かを取り出した。
青いビー玉だった。
ショウは固まる。
ユウキも固まる。
「は?」
「いや俺も同じ反応した」
タクヤが言う。
「朝起きたら机の上にあった」
ショウはビー玉を受け取る。
間違いない
昨日
夢の中で見たビー玉だ。
光の当たり方まで同じ
傷の位置まで同じ
「おかしいやろ」
ユウキが呟く
「夢のもんが出てきたんやぞ」
「だよな」
ショウも頷く
つまり
あの世界の物は現実へ持ち帰れる。
そして
夢ではない。
その可能性がどんどん高くなっていた。
「なぁ」
タクヤが少し真面目な顔になる。
「今日も行くよな?」
誰も答えない。
でも答えは決まっていた。
怖い。
意味も分からない。
それでも
行かない選択肢はなかった。
冒険だからだ。
中学一年生の夏休みに
本物の冒険が起きている。
そんなの
やめられるわけがない。
その時だった
ユウキが空を見上げた。
「なぁ」
「ん?」
「誰か見てへん?」
ショウも振り返る。
公園の入口
そこに男が立っていた。
麦わら帽子
白いシャツ
年齢は六十代くらい
こちらを見ている。
…気がした。
だが
目が合った瞬間
男は歩き去っていった。
「誰やろ」
「近所の人ちゃう?」
「かなぁ」
三人はそれ以上気にしなかった。
だが
なぜかショウだけは引っかかっていた。
どこかで見た気がしたのだ。
夜
再び夢の世界。
時計台の前、
四人は自然に集まる。
もう慣れてしまった、
夢の中で集合することに。
「おっ」
少年が少し嬉しそうな顔をした。
「どうした?」
ショウが聞く
「ビー玉」
「持って帰れたんだ」
「知ってたんか?」
「なんとなく」
相変わらず曖昧だった。
だが以前より表情が明るい。
記憶が戻っているのかもしれない。
その時、
時計台の扉が勝手に開いた。
ゴゴゴゴ……
四人は顔を見合わせる。
中へ入る。
無数の扉。
前回と同じ。
しかし
一つだけ変化があった。
『海』
と書かれた扉
その文字が消えている。
まるで役目を終えたように。
「クリアしたってことか」
タクヤが言う。
「ゲーム脳やな」
ショウが返す。
だがその考えは当たっている気がした。
その隣
新しく光る扉がある。
『秘密基地』
少年が息を飲む。
「覚えてる?」
ショウが聞く
少年はゆっくり頷いた。
「少しだけ」
「どんな?」
「夏休みに作った」
「四人で」
その瞬間、扉が勝手に開いた。
眩しい光
そして、景色が変わる。
森だった。
木々が生い茂っている。
空が見えない
湿った土の匂い。
虫の声。
夏の森。
「ええやん」
タクヤが言う
「なんか冒険っぽい」
「今さら?」
ショウは笑った。
その時だった、
少年が森の奥を見つめる。
「ある」
「何が?」
「秘密基地」
そして歩き出した。
四人は後を追う。
森の中
倒木を越え
草をかき分け
十分ほど進んだだろうか
突然、視界が開けた。
そこにあった、
木材で作られた小屋。
不格好で、
ボロボロで、
今にも壊れそうな、
だけど、
間違いなく、
子どもたちの秘密基地だった。
「うおぉぉ!」
タクヤが駆け出す。
「秘密基地や!」
「見たら分かる」
ショウが突っ込む。
だが、自分も少し興奮していた。
男なら一度は憧れる、
秘密基地だ。
四人は中へ入る。
そこには
古い雑誌。
空き缶
虫取り網
そして
壁に貼られた一枚の紙。
色褪せている。
少年が近づく
震える手で触れる。
そこには
子どもの字でこう書かれていた。
『世界一の冒険計画』
全員が固まる
タクヤが言う
「待て」
ショウも思った。
まさか
少年は紙を見つめたまま呟く。
「思い出した……」
「え?」
「僕たちもやってたんだ」
風が吹く。
紙が揺れる。
少年の目に涙が浮かぶ。
「世界一〇〇って言いながら」
「毎日遊んでた」
その瞬間、小屋の外から
ギシッ
という音がした。
四人は振り返る。
入口の向こう。
森の暗闇
そこに、誰かが立っていた。
人影。
大人だった。
顔は見えない。
ただ、帽子だけが見えた。
麦わら帽子。
昼間、公園で見た男と同じだった。
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