第6話 思い出されたくない記憶
「思い出されたくない記憶だ」
少年の声は震えていた。
海の向こう
巨大な黒い影がゆっくりと姿を現す。
波が荒れる
空が暗くなる
まるで海そのものが怪物を恐れているようだった。
「いやいやいや」
タクヤが後ずさる。
「デカすぎるやろ」
「ラスボスやん」
ユウキも顔を引きつらせる。
「まだ俺らレベル1の初期装備やぞ」
ショウが思わず突っ込んだ。
こんな状況なのに
三人とも少し笑ってしまう。
怖い時ほどふざける。
それが中学生男子だった。
ドォォォン!!
怪物が海面を叩く。
巨大な波が押し寄せる。
四人は慌てて逃げた。
「走れ!」
少年が叫ぶ
砂浜を全力で駆ける。
だが怪物は止まらない。
ゆっくり
確実に近づいてくる。
そして
ゴォォォ……
低い声が響いた。
人の声だった。
『かえせ』
全員が足を止める。
怪物が喋った。
『かえせ』
『その記憶を』
少年の顔が青ざめる。
「やっぱりだ」
「何が?」
ショウが聞く
「記憶を取り戻そうとすると出てくる」
怪物はさらに叫ぶ。
『わすれろ』
『おもいだすな』
『かえせ』
海が荒れる。
波が高くなる。
空が黒く染まる。
まるで世界全体が拒絶しているようだった。
その時
写真が光り始めた。
少年が持っていた古い写真。
そこから小さな光が浮かび上がる。
青白い光。
四人の周りを回る。
「なんやこれ」
ユウキが手を伸ばす。
光は逃げない。
むしろ導くように飛んでいく。
海辺の崖の方へ
「追いかけよう」
ショウが言った。
四人は走る。
怪物の咆哮が後ろから響く。
だが光は止まらない。
崖の上へ
古びた灯台へ
その入口まで飛んでいった。
そして消える。
「ここ?」
タクヤが扉を押す。
ギィィ……
重い音を立てて開いた。
中は暗い。
埃だらけ
誰もいない。
しかし
二階へ続く階段の途中に何かが落ちていた。
ノートだった。
古い
表紙が色褪せている。
ショウが拾う。
開く
そこには子どもの字でこう書かれていた。
『夏休みの計画』
全員が顔を見合わせる。
ページをめくる。
『海へ行く』
『秘密基地を作る』
『宝物を埋める』
『写真を撮る』
その文字を見た瞬間。
少年が頭を押さえた。
「うっ……!」
「大丈夫か!」
ショウが支える。
少年の目から涙がこぼれた。
「思い出した」
「何を?」
「いつも一緒だった」
風が吹く。
灯台の窓が揺れる。
「僕たちは、いつもみんな一緒だった」
写真の少年たち。
海
夏休み
全部繋がる
「名前は?」
ショウが聞く
少年は苦しそうに首を振った。
「まだ思い出せない」
「惜しい!」
タクヤが叫ぶ。
「あとちょっとやん!」
その時だった
ドォォォォン!!
灯台が揺れた。
怪物だ
海から上陸してきた。
巨大な手が灯台を掴む。
壁が割れる。
「やばい!」
ユウキが叫ぶ。
崩れる。
このままじゃ
全員死ぬ。
その瞬間
少年のポケットから何かが落ちた。
カラン
古いビー玉だった。
青いビー玉
それを見た瞬間
怪物の動きが止まる。
全員が気付く
怪物はビー玉を見ている。
まるで懐かしむように。
「これ……」
少年が呟く
「僕のだ」
次の瞬間
怪物の身体にヒビが入った。
バキッ
バキバキバキッ
巨大な身体が崩れ始める
『やめろ』
怪物が叫ぶ。
『おもいだすな』
『おいていくな』
その声は
怒りではなかった。
どこか
寂しそうだった。
やがて怪物は黒い砂となり
風に消えた。
静寂
青空が戻る
海も穏やかになる。
そして
少年の手の中に
小さな銀色の欠片が残った。
鍵の欠片だった
時計台の鍵と同じ形。
「また鍵?」
ショウが言う。
少年は静かに頷く。
その時
頭上から鐘の音が聞こえた。
ゴォォォォン……
気付けば海の景色が薄れていく。
夢が終わる
消える直前
少年がぽつりと呟いた。
「もしかしたら」
「僕の名前……」
三人が振り返る。
少年は遠くの海を見つめながら言った。
「カで始まる気がする」
その瞬間
世界は白く染まった。
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