赤と白

次の日俺は夕方まで寝ていた。そりゃ、そうだ。

そしてまた出勤な訳だがとてつもない睡魔に襲われ自由時間も少ないのでうんざり。

とりあえず

パーマをかけた。ぽいじゃんね。

ずっと頭の中で女の子について考えていた。なんて生き物だ。だいぶ疲れているし、仕事に行くのさえもはやトラウマになってるかのように鬱な訳だが、俺は今までここまで考え事をした事があっただろうか。

いや、無い。これが充実なのか?!

パーマ液の匂いをかぎながら昨日の白いドロドロについて考えて泣きそうになった。関わりたくない。助けてくれ。暗黒世界。

「将来の夢はき⚫︎がい」

と部屋に貼ってある張り紙を思い出してため息をつく。

き⚫︎がいって楽しいのかな。

さりちゃんに会いたくないなあ。


ドアについた鐘が鳴る。俺、出勤です。


「おー深海。ちゃんと来たか」


いつも同じ景色を見ている気がするのに、まだ2日目だ。

「おはようございます」

「パーマかけたのか」

「あ、はい」

「微妙だな」

うるせえハゲ。

着替えてたら、早番のこころが入って来た。

「やー、まじ暑いね。死んだほうがいい。まじで。東京死ね。おはよう」

おはようの前に色々ついてたが、俺は「おはようございます」と丁寧に言った。


その後にゆかりが出勤して来て

「めっちゃ汗かいたー!へへへ。おはよう」

と可愛かったので自分の中で人気の順番を入れ替えてあげたかった。


次々女の子が出勤して来てカウンターで待機をしてた。早い時間はお客さんが来なくて暇なので、ゆかりが色んな人に電話しまくってた。

「えー今日来るって言ってたじゃん。ひまなの。お店ひまなの。おそいよ」

と可愛く言っていたのにそのうち

「いややっぱ行かないとかやってないから」

「おっパブ(おっぱいパブ)よりうちの方が楽しいじゃあん!」

「なんでって、ゆかりが居るからに決まってるじゃん」

って攻め込むようになり、そのうち

「はい。来ないのね。じゃあもういいよ。来るって言ったのに」

「いや外でご飯食べれないよ忙しいから」

「はー。じゃーね」

って諦めて電話を切るたび「まじうぜえんだけど意味わかんねえあのブス」とか言ってた。

他の女の子に

「ゆかりさんネイルかわいいー変えたんですか?」

とか褒められても

「可愛いでしょ、にしてもまじうぜえんだけどあのブス」

って語尾に何かつける方言のようになってしまって機嫌が悪かった。


そこにさりちゃんが出勤してきた。


「おはようございます」

俺はドキッとしたが、それは俺だけでさりちゃんは何もなかったように更衣室に入ってった。

白いドロドロを思い出して吐きそうになった。

さりちゃんは今日は白の水着を着て、俺の顔を見て「財布宜しくお願いします」と丁寧に笑う。やはり、さりちゃんが一番どう話してても普通なのだが。


「さり顔赤」

ゆかりがそう言うと

「二日酔いで」

と真顔で返すさり。

「昨日何時までいたの」

「4時半くらい」

「えー!山田さん?」

「うん」

「よく頑張った」

ゆかりはさりちゃんの頭を撫でたが、さりちゃんは全くの無視で携帯をいじっていた。誰かに電話する訳でもなく、俺に「お茶ください」と言ってあくびをしていた。

「さりさーちゃんと営業してる?」

「まあ」

「私なんか毎日めっちゃすごい人数にしてるよ。さりもしな。今日店暇だし?」

「あーうん」

「てかそろそろ飲み行かない?」

「まあ日が合えば」

つめたっ!!!

さりちゃん、ゆかりにつめた。

ゆかりの機嫌がさらに悪くなったところで、団体のお客さんが来店。


社長的な人の指名はさりだった。


昨日は来なかった団体だが、全体的にチャラチャラした空気感で常に「ラブポッキー」だとか「王様ゲーム」だとかやりだしそうなノリだった。

こころは死ぬほど一気飲みさせられてるし、ゆかりは触られまくってるし、他の子も。

さりちゃんはずっと社長(あだ名)に肩を抱かれてて、

みんな女の子はニコニコしてるが、後の祭りだなあ(俺的に)と思った。

社長が何かさりちゃんの耳元でずっと話してたが、そのうち笑ってたさりちゃんが

俺の目を見るようになった。

え、何。やめて。こわい。ドロドロ。緊張する。なに。

「ん?」って顔をしても何も反応ないし、社長のお話にはちゃんと答えてるし。

何。なに。さりちゃん、何。

「好きな食べ物なに?さり。今度同伴しよう」

「ハンバーグとか」

「なに寿司とか焼肉とかでもいいのに」

と社長が言うと

「うそだよ」

って、無邪気に笑うもんだから社長にアゴを掴まれた。それを自然に避けるようにさりちゃんはグラスを口に当てて

俺をじっと見た。

なに。


「あ、噛んじゃった」




さりちゃんがグラスの口の部分を、噛み砕いたので俺は衝撃で今まで避けてたさりちゃんの視線をじっと見てしまった。

そのときにはさりちゃんの視線は俺に無かった。ハゲが急いでグラスを回収して「うがいしてくるね」と笑いながら唇から血を滲ませまくったさりちゃんが近づいてくる。

でもさりちゃんは俺のことも見ないし、話しかけもしなかった。



さりちゃんはその日、2時くらいに上がった。



「お疲れ様です」と淡々と言うので、財布を渡す時に間違えて

「さりちゃん」

と言ってしまった。


「え?」

いや


え?って言われても俺もわかんない。


「口、大丈夫?」


そして一番踏んではいけない地雷をジャンプして踏みました(間違えた)。


「ありがと。ばかでしょ」

ってゲラゲラ笑うさりちゃん。の目がまた血走っていたように見えた。



営業終了後。今日残ったのはゆかりだった。

「店長。あたし来週ここ休みたい」

2日目だが、一番面倒くさい女はこいつかもしれない。


「てかさりあいつムカつくんだけど。もうみんなムカつく。死ねよ」


一番今日の前半でおまえを褒めそうになった俺を殴りたい。


「あたし最近イライラしてんの。深海もイライラしてるからパーマかけたの?むらむら?」

うざ絡みで、さりちゃんが泥酔した日より帰りが遅くなった。


ゆかりはさりちゃんの悪口をちょこちょこ挟んで最後に、「あのメンヘラがよ」と言って

「深海いいやつだな」って帰ってった。俺は嫌いだぞ。


ハゲは俺の気も知らずに電卓を叩いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る