日常エキセントリック
俺は少しの貯金で生き延びていて、欲しいものが何かと今聞かれるときっとそれは
「日常エキセントリック」だった。
だから。履歴書をもってこんな下品な場所に来ているのだ。(?)
そこは水着キャバクラで、俺はボーイを任されようとしていた。(自ら)
カウンター席と、ボックス席が8つと広くも狭くもない、レベルもそこまで高くない(ひよった)。そこに少し広めの女の子が着替えるロッカーがあって
その空間で俺は女の子に間違えなく囲まれていた。
面接はフランクなつるっパゲが俺の目の前に現れて、スーツなので見た目はいかついが、想像してるよりはるかに穏やかに行われた。
女の子達がひややかな目で俺を見ながら噂していた。でもきっとその内容は俺のことでは無かった。
「新人のボーイ、深海くんです」
ハゲは俺を笑顔で紹介し、みんな俺を興味なさそうに見つめる。
実印を要求した書物には、「風紀を乱す行動は禁止。キャストとむやみに連絡を取らない」と書いてあるが
日常エキセントリックを求め何も怖いもの無い俺はそんなものぶっ壊す気満々だった。
が
それもモテたらの話だ。
「ねーねー新しいボーイさん。お茶ちょうだい」
真っ黒の髪の毛でショートボブ。細身のくせに乳がでかい。目が大きくてまつ毛が長く、カラコンは茶色でギャルギャルしい女。
ゆかりと言った。
俺はガチガチの笑顔でお茶を差し出すと
「ありがと。名前なんだっけ」
「深海です」
「深い海ってかいて?深海?」
「その通りです」
「へー」
話終わり!と言うようにカウンターで携帯をいじりだしたゆかりは、あまりにもナチュラルに水着姿だった。水色マーブルの派手なヒラヒラ水着だ。
「深海さんはさ、何してる人なの」
「今は何も」
やべえ。そうだった。
俺全然女の子と話出来ない人だった。
ゆかりはこの店で3番目の人気らしい。人懐っこい(風)が人気の秘訣だろうか。
お客さんが来店する。
「あー♡いらっしゃーい待ってたよ」
と愛想をふりまくゆかり。
ゆかり…(遠い目)
待機していた女の子達も立ち上がりあいさつしていく。
そこで更衣室から出て来た背の高いヤンキーギャルが居た。
「財布、預かってて」
冷たく俺に財布とロッカーの鍵を投げると、何故か俺に微笑んでから無言でお客さんに手を振った。目の周りがキラキラ。綺麗系だ。
この女はこころと言って、この店で2番目らしい。
そこでまたお客さんが来店。
女の子と一緒に入って来た。
その女の子は私服だと、渋谷でも原宿でも、てか、どこにでも居そうな普通の若者で
髪の毛は肩までくらいのミディアムで、黒だった。
「いらっしゃいませ」と俺が言うと
一度キョトンとしてから微笑んだ。
ヘルプの別の女の子をお客さんに付けて、着替えでロッカーに行く途中
俺を見て
「新しいボーイさん?」
となんとも言えない温度で質問するので
「はい。宜しくお願い致します」
と言うと
「大変だけど頑張って下さい」と言われた。緊張感はそこまでなく、「やっと怖くない人と話せた」って思った。
が
その子はさりちゃん。この店で一番人気だった。
この店の営業は朝まで続く。
さすがに眠たかった。人はやはり日中に生きるべきだと初日で思ってしまった。
「てかさ」
深夜3時だ。
「触られてるのになんで止めないの?脳みそ墓場なの?」
と名前も覚えてない女の子に言われたり、
「新しいの、なんか特技は?」
って特技なんか笑えるほどないんですそれが特技なんですかね?ってゆう俺に聞く見た目ヤカラの客が居たり
初日で最悪だ。帰りたい。愛されたい。むらむらしたい。楽しみたい。普通でいい。
と諦めた。
結局女の子が次々上がって、最後に残ったのはさりちゃんだった。
ワインを浴びるほど飲んでいて、きっとすごく酔っ払っていた。
「じゃあねー!ありがとーねー、」ってお見送りしてからロッカーに向かうまでも足がもたついて、
ロッカールームからしばらく出てこなかった。
「新人さ、さり呼んで来て」
とハゲが俺にため息混じりに言う。
まじかよこの女帰らないと俺帰れないのか。と悟った。
「寝たんだと思うんだよ」
「え、…そのロッカー開けても大丈夫なんですか?」
「あぁ。鍵はい」
「でも着替えてたら可哀想じゃ」
「おめー」
「いや更衣室ですし」
「童貞だろ」
「違います」
「酔っ払って死んでちゃこっちが困るだろ。明日泊まりで出勤したいか?」
「あ、絶対嫌です」
「なら起こして水でもあげてこい」
「…」
「…おめー童貞だろ」
「違います」
俺はむらむらしたことが無いんじゃなくて、むらむらする機会が無かったんだと今気がついた。
俺からしてみたら劇場版の緊迫感で、ゆっくり鍵を開けた訳だが
それをハゲは気づきもしないで電卓を叩いていた。
ゆっくり中を覗くと、さりちゃんの姿は見えなかった。ロッカールームは少し広めなので、俺は奥へと歩いた。
「さりさん?」
少し奥に、体育座りするさりの後ろ姿があった。黄色の水着だった。俺は恐る恐る肩を叩く。
「さ…」
さりちゃんは
ジップロックに入った謎の白いドロドロを手で食べながら俺を睨むように振り向いた。
言葉が出なかった。
多分これは
お水でといた小麦粉?ヨーグルト?
「…酔っ払ってるの?」
持参したの?それ
「酔っ払ってる」
真顔で口の周りを白くするさり。
「…お腹空いてるの?」
いやでもそれなんだろう。
「うん」
さりは他の人と比べたら少しぽっちゃりしていた。(ほんと少し)
さりの口元の白い粉粉したドロドロが、
おっぱいに
ああだめだ俺
その瞬間さりは、そのジップロックを狂ったように閉じてトイレに走った。
オエエエエエと言う貰いゲロしそうなSEが聞こえた後、さりは急いで戻ってきて私服に着替えてジップロックをカバンにしまう。
「お疲れ様です」
何事もなかったかのように。俺を無視して帰っていくさりは、目が血走っていた。
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