【続き・おまけ】



「さて……。アレはどう動くかな……」




謁見室の玉座。その背凭れに寄り掛かるようにして座っている国王。


その顔には疲れが見える。




王の真正面の位置に立つシャーロットはまるで聖母のような表情で微笑んだ。




「わたくし、王太子殿下に敢えて『あなた様ができることは二つ。傀儡の王としてわたくしに使われるか。それとも王位継承権を返上して、どこかの田舎で余生を過ごすか』と申し上げましたけれど……。実は選択肢などいくつもございますわよねぇ」


「アレが気付くと思うのか?」




国王は深いため息を吐きながら、シャーロットを見た。


シャーロットは軽く首をかしげる。




「さあ……、一応、開口一番で『復讐はなさいませんの?』とはお尋ねして差し上げましたし、『身分差のない平等な社会を作りたいから力を貸せとわたくしに命じても良い』と示唆はしましたが……」


「シャーロット嬢の言葉の裏など、アレには理解もできないだろう。無能で阿呆だ」


「ですが、陛下やわたくしのところに乗り込んでくる気概はありましわよ?」


「気概……? リリアン・オブ・クラークソン男爵令嬢が本当に『粛清』されたかどうか程度、自分で調べもせずに、ただ感情のままに突進してきただけだ」




そう……シャーロットはフィンドレーに告げた。




『陛下のご命令、ということになりますわねぇ。王太子殿下の、身分を超えた愛は、陛下にとっては否というご判断。ですので男爵家は……粛清でもされたのでは?』と……。




殺害させたなどと、シャーロットは断言などしてはいない。


排除しただけ。




国王もそうだ。『粛清をした』とも『していない』とも言ってはいない。




『うるさいぞ、フィンドレー』


『ですがも、しかしもない。控えておれ』




告げたのは、ただ、それだけ。




重ねて『彼らを害したのは父上ではないですよね⁉』と問われても、答えはしなかった。




「……マーティ・バリー・レッドメイン伯爵のたとえ話が刺激すぎであったのか」


「たとえ話でございましょう? 実行したとは誰も言っておりませんわよねえ」




ため息のような国王の言葉に、シャーロットが笑う。




生きたまま棺桶に入れて、墓に埋める。


たとえとして述べただけ。


だが、聞いただけで、フィンドレーは震えだしたのだ。




「フィンドレー王太子殿下はお優しいですわね」


「……阿呆なだけだ。アレを鍛えねばならんのだから、シャーロット嬢には苦労を掛ける」


「あら、陛下。わたくしはなにもしておりませんわ。ただ、わたくしの意見を述べただけ」




そう、いつものように、貴族学園の放課後のカフェで。


取り巻きの令嬢たちに囲まれながら、香りの高い紅茶を楽しんでいただけ。




そして、シャーロットにとって望ましい未来を強調して告げただけ。




『あなた様ができることは二つ』


『傀儡の王としてわたくしに使われるか。それとも王位継承権を返上して、どこかの田舎で余生を過ごすか』




実のところ、選択肢など二つではなく、いくらでもある。




この二つを敢えて告げたのは、シャーロットに取ってこの二つのうちのどちらかを選択してもらえば楽だから。




「ですが、陛下は……、フィンドレー王太子殿下が『真実』を探り当て、立ちあがってほしい……と、願っていらっしゃるのでしょう?」


「……探り当てられると思うか?」


「さあ? フィンドレー王太子しだいでは? 一応、リリアン嬢が学園に来ないことで、彼女の家まではご自分で赴いたようですし」


「だが、詰めが甘い。毒婦とその家族と使用人。それがいないということだけを確認して、シャーロット嬢に文句を言った」


「……側近や騎士たちを動かして、あの者たちを拉致させた状況でもつかめれば、あとを追いかけられたのでしょうけれどねぇ」




拉致。


そう……、実のところ、シャーロットも国王もリリアン・オブ・クラークソン男爵令嬢たちを殺してはいない。




とはいえ、そう甘い処置もしていない。


一家全員、使用人も含めて。


マーティ・バリー・レッドメイン伯爵が有する領地の、その無人島に放り込んだだけだ。




住民はおらず、絶海の孤島。


だが、そこには動物は生きているし、食することが可能な果実なども豊富だ。




「……無人島に流されたかわいそうな男爵令嬢。勇気ある王太子が救い、二人は結ばれる。そして、王太子は悪の令嬢と国王陛下を倒し、男爵令嬢と新たなる国を建てるのです……。そんな未来もフィンドレー王太子には残してあるのですが」


「そこまでできるのであれば、儂も文句は言わん」


「実行できれば、壮大な建国神話として後世に継がれるかもしれませんわね……」




語り継がれた場合、シャーロットは悪役として名を残すことになるのだが。




傀儡となった王太子を擁し、王妃として国を支配する未来よりは面白いかもしれない……。




シャーロットは微笑んだ。

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陛下に申し上げただけですわ【6/22 続き・おまけ投稿】 藍銅 紅@『姉ずる』コミカライズ連載中 @ranndoukou

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