第52話 稲刈り *純*

 毎日、良二のところに通って、稲刈りの時期を待った。


 十月も半ばになろうとしている。畑に出た良二たちが戻って来て、明日から稲刈りをするそうだ。


 平成では機械ですべてを完結しているそうだが、今の時代は人力だ。脱穀は機械を使っているそうだ。


 少し前までは稲刈りを仕事とする者がいた、年々そういう人たちは少なくなっているそうだ。オレも小さい頃は下の家の稲刈りをしたものだっけな~。


「午後から少し刈り始めるよ」


「任せろ! まだ腕は衰えてないぞ!」


「魔法でも使うのか?」


「使うまでもないだろう。まあ、三月はわからんがな。あいつはバケモノだから、一日で終わらせてしまうかもしれんぞ」


 何度か山を一緒に走ったが、一時間走っても息切れ一つしなかった。ちょっと庭を歩いたような顔をしていたものだ。


「それはありがたいじゃないか。なら、近所にも声を掛けておくか。どこも人手を求めているからな」


 あいつのことだから嫌な顔一つしないで引き受けるだろう。逆に頼られて来年が心配になるんじゃないか?


「やりすぎだ!」


 午後から稲刈りを開始したが、なんか良二に怒られてしまった。まだ畑の半分しかやってないだろうに……。


稲架はさを組み立てんとならんな」


「あー稲を干すヤツな。どこに組み立てるんだ?」


「この畑だ。義父さんを呼んでくるか」


「なら、オレは刈っておくよ」


「そう熱中しなくていいからな。干すのも手間が掛かるんだから」


「任せろ!」


 鎌を掲げた。


 気合い全力で稲を刈り、纏め、集めやすいように地面に並べた。


 十五時まで畑の八割を刈ることが出来た。まだ体が固いな。準備運動するんだったよ。


「ほら、水を飲め。てか、張り切りすぎだ。本当に一日で終わりそうな勢いだな」


「近所の人にも声を掛けておけ。あ、三月に連絡しないといけなかったわ」


 三月もなにか忙しそうにしている。帰っては来ているから家で待っていれば会えるだろうよ。


「その前に宏子さんに会いに行けよ。結婚式まで時間がないんだから」


 そっちもあった! 夜を食べに来なさいとかも言われてんだった!


「わ、わかったよ」


「あと、行くなら風呂に入って汗を流してからにしろ。汗臭いと嫌われるぞ」


「わかってるよ!」


 転移で家に帰ると、家の前を三月が鍬を持って均していた。とうとう買ったようだ。畑にするのか?


「三月!」


 呼ぶと、鍬を担いでこちらにやって来た。


「おう、お帰り」


「ただいま。明日から稲刈りを始めるよ」


「了ー解。七時には行くよ。昼は持って行ったほうがいいのか?」


「あちらで出してくれるが、何人来るかわからんから、足りないときのために持参しても構わないぞ」


「わかった。桜小町でお願いするか」


「夜もいただけるから酒でも持って来てくれよ」


「ビールでいいか?」


「ああ。あまり強い酒だと次の日に支障が出るからな」


 おじさんは昼にビールを飲んでいた。あの年代はもう水みたいなもんなんだろうよ。


「オレは酒田に行くよ。宏子さんに会って来る」


「アハハ、大変だな」


「うるさいよ!」


 異世界の小屋へと向かって汗を流し、着替えてから酒田へと転移した。


 門の前に現れ、中に入ると、洋服を着た宏子さんがいた。なんで帯刀しているかはわからないけど……。


「こんにちは、宏子さん。なにしているんです?」


「旦那様を待っていました。今日、来そうな予感がしましたので」


 未来視!? あなたはそんな力まであるんですか?!


「冗談です。三月さんから念話が届きました。旦那様がそちらに行くと」


 念話? あいつ、そんな力まで使えたのかよ! 出来んならオレに送れよな!


「ええ。友人からちゃんと宏子さんと関係を結べよと注意されました。オレ、女性と付き合ったことがないので、気配りとか足りてないときはすみません」


「わたしも男性と付き合ったことはないので大丈夫ですよ」


 にっこり笑う宏子さん。あれ? 目が髪で隠れてない!?


「か、髪、切ったんですね」


 さすがのオレも女性が髪を切ったら褒めるってことは知っている。すぐに気付かなかったのは許してください。


「ありがとうございます。変ではありませんか?」


 なにやら女性らしいことを言うな。母親に教育されたか?


「とっても似合ってますよ。綺麗な目をしていたんですね」


 目許を隠していると不気味に見えたが、こうして目が見えると普通の女性だ。帯刀しているのはどうかと思うけど。


「刀、どうしたんです?」


 三月が剣を渡したとか言ってたが。


「蔵から見つけて、父からいただきました」


 だからって付けることもないと思うんだがな。この人は、刃物を持ってないと不安なんだろたうか?


「少し歩きましょうか」


 逢い引き──三月が言うにはデートか? 二人で歩いて関係を築けと教えられた。夕食まで時間があるので、結婚式が行われる神社へと向かってみた。


 途中、宏子さんがオレの手を握ってきた。


「母がこうしろと教えてくれました」


「そ、そうなのですね。女性と手を繋いで歩くのは初めてなので、ちょっと照れ臭いですね」


「わたしもです」


 照れ臭そうに笑う宏子さん。母親になにを教わったのだろう? こんな人ではなかったはずなのに。


 なんて言っていいのかわからんので、握る手に力を込めて歩くことにした。

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