第34話 仁井家 *純*
学さんと奥様を連れて酒田駅へと転移した。
「……変わってないわね……」
懐かしそう顔をする奥様。五年でも懐かしく感じるんだな。
「ここからどうしましょうか? バス、ありますかね?」
「いや、タクシーで行こう」
と言うので駅に近くにあった遠藤自動車商事ってところからタクシーに乗り、海のほうに向かって走り出した。
オレは前の席に座ったので、町並みがよく見えた。
「陸の孤島と呼ばれていた時代があったようには見えませんね」
「まあ、大きな町には鉄道が通りましたからね。とは言え、冬は厳しいですな」
運転手の男性は四十くらい。過酷な時代を知っているのだろう。
「港も工事が活発にって大きい船も来るようになりました。近代化が著しいです」
どこも戦争から抜け出して、近代化が進んでいるんだな。
目的地はそう遠くないようで、十分、いや、五分くらいか? 意外と近かった。
「なにか、城下町みたいな感じですね」
「ここは、豪商たちが繰らしてましたからね。今ではかなり減りましたが」
最上川を通してここに米が集められた。かなりの数の豪商がいたんだろうな~。それが戦争で潰れたところもあるんだろうよ。
「到着しました」
ここが仁井家か。ここは思ったとおりに凄い屋敷だった。門も凄い。奥様、名家の生まれだったんだな……。
「新子様、お早いお着きで。お近くにいたのですか?」
中年の女性が出て来た。奥様より年下だから子供の頃の、ってわけではなさそうだ。
「え、ええ。皆は元気? あなたは、少し痩せたんじゃない?」
さすがに転移しましたとは言えないので話を誤魔化す奥様。申し訳ありません。
「
「ねえ様!」
と、奥様に似た女性が出て来た。見た感じ、六十過ぎくらいか?
ひとしきり再会を喜び合い、屋敷へと入ることが出来た。
さすがの学さんも女性の会話には入れないようで、なんか気配を消している。
「仁井家は女系でな、八人姉妹なのだ」
八人姉妹とは、また凄いな。ってことは、旦那さんは婿入りなのか。いや、オレの周り婿入り多いな!
「新子の姉、
もうそれ、呪われてんじゃないのか?
奥様が主、学さんが準、オレは付き添いみたいなものなので、大人しく流れに身を任せている。
居間に通され、お茶を出された。
「旦那は仕事なのでごめんなさいね。夜には帰って来るから」
あまり早すぎるのもよくなかったな。車と汽車で一日の距離なんだから。
「
「吉子のところでは大人しくしているみたいだけど、夜中になると出掛けるようなのよ」
「どこに出掛けているかはわかるの?」
「訊いても答えないの。ただ、山の中に入っているみたいで足を汚して帰って来るのよ」
夢遊病というヤツか? いや、宏子ってことは女性か!? いや、女系と言っていたから女性なんだろうが、白鬼って、その女性のことなのか?!
「純。どう思う?」
いや、なんの無茶振りだ!? その宏子って人のこと今日聞いたばかりなんですよ! どう思うもないでしょう!
とは言えない。そのためにオレを連れて来たのだからな。
「修業でもしているのでは? オレも最初は山の中を走り、今では海や山に向かって走ってますから」
それ以外、山に入る理由なんて思いも付かない。修業じゃなきゃ、山頂で歌でも歌ってんじゃないの? オレに期待しすぎです。
「オレが訊いて来ましょうか?」
あれこれ問われてもオレには答えられない。なら、直接訊いたほうがいいだろう。別に食われるわけでもないんだから。あ、いや、だ、大丈夫だよな?
……念のため、防御の指輪を嵌めて行こう。五回くらいなら熊の爪にも耐えられるって言ってたから……。
「いいのか、純?」
「そのほうが手っ取り早いでしょうから。地図で教えていただけますか? そう遠くないのなら走って行けますので」
「章子さん。地図と住所をお願いします。純はその手のことに詳しい男です」
別に詳しくはありません。期待が重いです。
「わ、わかりました。すぐに用意しますね」
席を立ち、座敷を出て行った。
「純さん、いいの?」
「学さんにも奥様にもよくしてもらっていますからね。オレで役に立つなら使ってください」
二人とも親のように優しくしてくれている。その恩は返すべきだろう。異世界に行ったらそう簡単に戻って来れないのかもしれないのだからな。
「話のわからないような人なら縄で縛って連れて来ますよ。あとは、三月に任せます。あいつなら確実になんとかしてくれますから」
なんて丸投げなこと言って申し訳ない。だが、三月なら笑ってなんとかしそうなんだよな。学さんを前にしても萎縮することはなかったし。
「お待たせしました。宏子がいるのはここです。遊佐駅から月光川を二キロくらい登ったところにある吉沢という牛をたくさん飼っているところです」
地図を見せてもらったらそう遠くなかった。遊佐駅まで飛べば十分も掛からないだろうよ。
「吉子宛に紹介状を書きますね」
紹介状を書いてもらったらすぐに出掛けるとする。さっさと終わらせて修業がしたいからな。
「では、行ってきます」
章子さんがいるので見えないところまで走り、人のいないところで飛び上がった。
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