第31話 整体(治癒) *三月*

 三台で百万円にしてもらえた。


 安いのか高いのかわからんが、竿田さん親子が笑顔なので儲けにはなっているようなのでよしとしよう。


 手続きがあるので今日はそれで帰ることに。手続きが終われば能己邸に届けてもらうことにした。


「オレは家に帰るが、純はどうする?」


 午後から高湯に荷物を届けなくちゃならないのだ。そろそろ帰らないと不味いだろうよ。


「学さんのところに戻ってお礼を言ってくるよ。住んだら月山まで走ってみる」


 お前、段々人間離れしてきたな。頭の中が、だけどよ。


「了解。ハイヤーは頼むよ」


 そう言って町の中に向かい、人目のないところで庭坂駅前に転移した。


 旅館の仕入先たる商店に向かい、荷物を積んで高湯を目指した。


「お、ボンネットバスだ。走るようになったんだ」


 臨時のバスが駅から出るとは聞いていたが、もう走るようになったんだな。しかし、よくあの道を登って来たものだ。運転するのも乗っている人もヒヤヒヤだろうに。ジェットコースターより怖いんじゃないか?


 さすがにボンネットバスより速く走っていたらバケモノ扱いされるので道を譲った。


「そう言えば、車で登って来るの多くなったな~」


 時代が加速してんな~。来年には職を失いそうだ。


「まあ、そんときは別の仕事を……いや、もう仕事をしなくても毎月入って来るんだったな」


 新入社員として一万二千円。保険とか引かれても新聞配達よりもらえる。無理に働かなくてもいい身分になるのだ、のんびりやっと行こうじゃないか。


「こんちは~。荷物を届けに来ました~」


 今日も旅館は賑わっている。秘境みたいなところなのによく人が来るところだよな。知る人ぞ知るってところなんだろうか?


「ご苦労様。中にお願いね」


 いつもなら旅館の社長さんが出て来るのに、今日は仲居の村田さんだった。


「あれ? 社長さん、お出掛けですか?」


 レレレのレ~──って、なんだっけ? つい出てしまったが?


「ぎっくり腰だよ。ビールケースを持ったらギクリといったらしいよ」


「温泉でも治りませんか?」


「あはは! さすがに温泉に期待しすぎだよ。しばらく寝てれば動けるようにやるさ」


 そりゃそうだと、荷物を中に運んだ。


 厨房の外でラムネをいただいていると、女将さんがやって来た。


「純くん。ちょっと悪いけど、手伝ってくれるかい? あの人、ぎっくり腰で動けないんだよ」


「いいですよ」


「風呂場の掃除を急いでお願い。お客様が来ちゃうのよ」


 チェックインは午後の三時。もう一時間もないじゃないか。社長さん、過労によるぎっくり腰か?


「わかりました~」


 何度か手伝ったのでやり方は知っている。荷物を運んだら内風呂へと向かい、付与魔法で汚れを落とし、桶や椅子を配置する。


 脱衣所の床は掃除はしているようなので、重ねられているザルなどを棚に入れて、埃やカビなどがあったら排除しておく。


 内風呂が終われば露天風呂だ。ここも付与魔法で水垢なんかを綺麗にする。ついでに庭の雑草も風魔法で切り払っておく。おっと、クモの巣発見。悪いが退いてもらうよ。


「純くんにお願いすると見違えるくらい綺麗になるわよね。どうやっているの?」


「企業秘密です。オレが極めし技術なので」


 さすがに魔法で、とか言えんしな。


「君は変わっているわよね。うちとしては定期的に綺麗にしてもらえるからありがたいけど」


「ハッハッハ。お手当て弾んでくださいね」


「ええ。次は廊下もお願い。雑巾掛けしてちょうだい」


 社長と言いながら雑用をさせられる社長さん。涙が出そうになるよ。


 十五部屋もある旅館なので、廊下も長いというか広い。雑巾掛けだけで半日掛かるんじゃないかと思うよ。オレは十五分くらいで終わらすけど。

 

「ほんと、純くんって見えないところで十人くらいに増えてそうね」


「まあ、十倍速く動いているだけですけどね」


「どっちにしろ凄いってことじゃない」


 まあ、そうだな。大々的に誇ることは出来んけどな。


「社長さんの様子はどうなんです? ぎっくり腰なら揉んで治せますが」


 前に旅をしているときにぎっくり腰になったじい様を治療したことがある。あ、オレ、簡単な治癒魔法なら使えるんですよ。


「純くんはそんなことまで出来るの?」


「なにか資格があるわけじゃないんで、お金は取れませんがね」


 どんな資格かは知らんが、ここでは信用の出来る人にだけ披露しよう。特に社長さんには元気になってもらいたい。なんか可哀想だし。


「頼むよ。いちまでも寝込まれちゃ仕事にならないからね」


 社長、元気にしてやっかんな。


 社長宅は旅館から離れたところにあり、仲居さんも下宿してたりもする。


 こっちにも二、三回は来たことあるので声を掛けて中に入り、社長さんの部屋に向かった。


「社長さん、ぎっくり腰になったんだって?」


 布団で横になっている社長さんに声を掛けた。


「ああ、便所に行くのも一苦労さ」


「社長さんがいいなら腰を揉みますよ。これでも整体術を持っているんで。まあ、モグリですけどね」


「もう藁にもすがる思いだ。頼むよ」


 ってことで、社長さんの腰を揉みながら治癒術を行い、肉体強化と治癒力向上の付与を施してあげた。

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