第30話 東陽工業 *三月*

「実は、バイクが欲しいので、買えるところを紹介してください」


 重い空気になったので、さっさと本題に入るとする。


「三女さんの旦那さんが車を売っていると聞いたので」


 純も援護する。


「わかった。純のことは恵には伝えてある。車を用意するから言ってみるとよい。わしは、先に行かせてもらう」


 と、学さんは出て行ってしまった。


「そう言えば、ここには子供さんは住んでないのか? 結構広そうだが」


 人の気配は三人。奥さんと男性と女性の気配がする。


「隣に住んでいるそうだ。ここは、明治からある家だから若い人には住み辛いだろうからって」


「五十年後は重要文化財とかになってそうだな」


 昔の豪商の家とか博物館みたくなっていたっけ。小学生のとき、学校で行った記憶があるよ。


 しばらくして奥さんがやって来て、ハイヤーが到着したとのことだった。


「ハイヤーって、こんな時代からあったんだな」


 オレ、昭和時代のこと、なんも知らねー! 平成もだけど!


「なんか豪華!」


 まさに金持ちが乗りそうな車だ。レースのカーテンまで付いているよ。なんか偉くなった気分!


「……道がよければいいんだがな……」


 この時代の道のなんて悪いことよ。舗装されているところが少ないこと少ないこと。舗装されてないところは砂埃が凄いよ。よくピカピカにしているものだ。


 町中に入ったようで舗装された道が多くなり、建物も増えてきた。


「まだ牛や馬が荷台を引いているのか」


「これでも年々少なくなっていますよ」


 オレの呟きを運転手さんが拾って答えてくれた。


「車も増えているので?」


「はい。段々増えていくでしょうね」


 車の時代がやって来る、ってことか。渋滞になるのは嫌だな~。


「到着します」


 やって来たところは車の販売店と修理工場が合体したところだった。東陽工業? 知らん名だな。有名なんか? 


「バイクも売ってんのか?」


 てか、車屋でバイクを売る時代なのか?


「いらっしゃいませ」


 販売店のほうから五十くらいの男性と二十代の男性、あと、事務員っぽい女性も出て来た。


「能己学さんの紹介で来ました。ここでバイクを売ってもらえると聞いて」


 なんか純がビビったようなのでオレが話し掛けた。


「戸川純様でしょうか?」


「はい。そうです」


 純の背中を叩いて前に出させた。


「わたしは付き添いの相田三月と申します。恵さんの、旦那さんで?」


 年齢から言って若いほうだろうと目を向けた。


「はい。恵の夫で、竿田孝俊さおだたかとしと申します」


 と、名刺をもらった。隣の男性は竿田淳二さおだじゅんじさん。孝俊さんの父親なそうだ。


「突然押し掛けてすみません。忙しいようでしたらまたにしますよ」


「いえいえ。大丈夫ですよ。能己様からのご紹介を無下には出来ませんから」


 思った以上に有力者っぽいな。結構大きな店を経営しているだろうに、それでも気を使う存在なんだな。


「ありがとうございます。学さんにはよくしてもらったとお伝えさせていただきます」


 そうのほうが二人の立つ瀬があるだろうからな。


「ありがとうございます。こちらへどうぞ」


 販売店のほうに通され、個室へと通され、お茶とお菓子を出してもらえた。


「お、これ美味しいですね。ゆべしっていうんだ」


 なにか懐かしい味がする。昔、食べたような記憶が浮かんで来たよ。


「純。帰りに買って行こうか。お土産にしよう」


 せっかく山形に来たのだからお土産を買って帰らんといかんでしょう。


「では、お帰りまでにご用意させていただきます」


「そうですか。では──」


「お代はお気になさらず。うちからのお土産とさせてください」


 と言うのでお言葉に甘えることにした。その分はバイクを買うことで応えるとしよう。


「それで、バイクなんですが、こちらで扱っているのですか? 車屋さんで売るものなので?」


「都会ならバイク屋で扱うのでしょうが、東北の片田舎では車屋で扱うことが多いですね。最近は、趣味でバイクに乗る方もおりますから」


 娯楽で乗る、か。戦争は十年前くらいに終わったのに、やっと余裕が出来てきたってことなんだろうな~。


「どんなバイクがあるんです? ハーレーみたいなものがあるといいんですが」


 前に見たハーレーみたいなバイク、乗ってみたいんだよね。


「陸王ですか。四台ありますよ。中古になってしまいますが、よく手入れされているのですぐに乗れますよ」


 陸王? ハーレーの日本名なのか? 


 見せてもらったら前に見たのと確かに似ていた。何CCだ? 大きさと型がなんか違うが?


「格好いいですね。跨がっていいですか?」


「どうぞどうぞ。外に一台ありますので」


 修理工場のほうにあるようで、行ってみたらなんか白バイみたいなカラーのものだった。


「白バイ、ですか?」


「はい。県警の白バイらうちで整備させてもらっております」


 白バイって民間整備なんだ。警察ではやらんのか?


 引退したバイクのようなので、エンジンの掛け方を教えてもらった。


 キックでエンジンを動かすのか。チョーク? 黒板に文字を書くヤツ──ではないか。キャブレター? よくわからん用語だらけだな。


「勉強用に一台。オレと純の二台。計三台を買えますか?」


「オレも乗るのか!?」


「お前も乗るんだよ」


 純として買うんだからお前が乗らんと始まらんだろう。


「大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですよ。三台もお買い上げ、ありがとうございます」


 ニッコニコな竿田さん親子。これでお菓子代はチャラってことで。ありがたくいただきます。

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