第21話 親孝行 *三月*

 昭和時代に来て一月が過ぎようとしていた。


「九月も後半か。昭和時代の秋は早いんだな~」


 夏の風は終わり、秋の風になったのがわかった。やっぱ、日本の四季は異世界と違うな~。


「三月。日本海まで到達だ!」


 夕方になり、綺麗な夕日を眺めていたら純が帰って来た。


 なんかトライアルでもやっているのか、オレと同じくらいに目覚め、準備運動を済ませたら山のほうに駆け出し、山頂まで辿り着いたら飛翔の指輪で日本海を目指していた。


 別にまっすぐ飛べば昼前には着くだろうに、なぜか米沢から道を走って目指しているとかだった。


 さすがに無理やろう。とか思ったが、今日、まさかの達成したようだ。


 ……普通の人間でも八十キロって走れるものなんだな……。


「さすがに帰りは転移したがな」


 帰りも走ってだったらお前をバケモン認定しているよ。


「体力が付いたようだな」


「まーな。明日は海岸線を走って、岩手に向かってみるよ」


「せっかく海に行ったんなら魚を買って来てくれよ。魚が食いたい」


「働いてんならお袋たちを寿司屋に連れて行ったらどうだ? 初給料なんだし」


 あ、なるほど。確かにそれはいい案だ。またあの寿司屋に行ってみるか。


「そうだ。収納の指輪に魔力を籠めるものをもらえるか? 友達を安心させてやりたいんだよ」


 最大入れても余裕で二年は使える。心配はないのだが、魔法を知らない者にはわからないか。


「それなら棚に赤い宝石を埋め込んだ箱があったろう。あれに入れておけば勝手に魔力が充填されるよ。魔石はバケツに入っていただろう。あれを赤い宝石に当てれば魔力が補充されるようになっているよ。飛翔の指輪も入れておけば充填されるから」

 

 オレがやれば一瞬だが、箱だと半日くらいは掛かったんじゃないかな? ゼロからなら、だが。


「あー、あれか。わかった」


「あと、野営の練習もしておけよ。異世界では野宿が多いからな、暗い森の中で休めるように訓練しておけ。その道具は物置小屋にあるから」


「野営か。それなら登山でもするか。なんか登山が流行り始めているみたいだからな」


 登山か。そう言えば、吾妻小富士に登山する客も多いとか旦那さんが言ってたな。なにが楽しいんだかと気にもしなかったが。


「秋の終わりには武器の訓練をやるぞ。体力も必要だが、戦う術も必要になる。配達が休みの日に狩りに行くからな」


「おう!」


 八十キロ走ったのに元気なことだ。


 肩を竦めて家に入り、風呂を沸かすとする。薪風呂、サイコー!


 沸いたらとーさんを入れ、風呂上がりにはよく冷えたビールで一杯。次にかーさんに入ってもらい、風呂上がりには牛乳で一杯。最後にオレが入り、風呂上がりにはサイダーで一杯。最高である。


 夕食はかーさんが作ってくれたものでいただきます。かーさんに渡した転移の指輪で毎日買い物に出ているからカレイの煮付けも出るようになった。


「給料が出たら寿司を食べに行かない? またマグロの握りが食べたいんだよね」


「寿司か。せっかく働いた金を寿司に使っていいのか?」


「やっぱ初任給で親に食事をプレゼントするのが孝行じゃない? 純も寿司を買って来たって言ってたし」


 ベタなことをやりたいお年頃。次は温泉旅行をプレゼントしよう。


「ふふ。そんなこともあったね」


「ああ、そうだな」


 最近の純を見て、二人は嬉しそうにしている。


 だが、純はもうこの時代で生きようとは思っていないだろう。完全に二人のことはオレに託している。変な情を与えないようにしている節がある。


 なんか親子を分断したような気がしないでもないが、オレが来なければ不幸な未来しかなかったのだ、許してもらうしかないだろうよ。


「オレも親孝行したいから寿司に行こうよ」


「じゃあ、ご馳走になるか」


「ええ、ご馳走になりましょうか」


 決定ってことで、新聞配達と高湯への荷物を運んだら寿司屋にレッツゴー。土曜日の午後七時から食べれるかを尋ねた。


「おう、任せておきな! 予算はどのくはいだい?」


「うーん。お酒込みで五千円でお願いします。ネタはお任せで」


「あいよ。戸川様三名で予約入れておくよ」


「前金で五千円払っておきますね。追加が出たら払いますんで」


 三人だし、オレととーさんは酒を飲む。土産はいらないから五千円で足りるだろう。

 

「ありがとよ。気前のいいお客は助かるよ」


「初任給なんで親孝行ですよ。泣かせてばかりのダメ息子でしたからね」


「そうなのかい? 立派に見えるが?」


「あはは。よくなったのは最近です。今は仕事が楽しくて仕方がないですよ。あ、余った魚があれば売ってもらえます? 魚を捌けるようになりたいんですよね。魚を捌くように包丁を打ったんで」


「お客さん、鍛冶師かなんかかい?」


「趣味で打ったまでですよ。あ、見ます? 刻印が打てるものがないかこれから金物屋に行こうとしてたんですよね」


「ああ。興味があるんで見せてくれ」


 鞄から出したように見せて大将に包丁セットを見せた。


「見事な包丁箱だな。これも手作りなのか?」


「ええ。こういうのが得意なものなんで」


 異世界じゃすべてが自給自足。それは包丁も箱もそう。十年で職人にも負けない腕を身に付けたものさ。

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