第20話 高湯温泉 *三月*

 仕事を初めて七日。働きを見てか、所長さんが配達の許可を出してくれた。


「まずは春夫と回ってくれ」


 春夫さんは、十九歳とか。農家の次男だそうだ。


「よろしくお願いします!」


「あ、はい。純さんは、元気ですね……」


「元気だけが取り柄よ!」


 呆れる春夫さんに続いて配達に出発。てか、二十年振りに自転車に乗ったよ。案外、問題なく乗れるもんなんだな。びっくりだよ。


 春夫さんの担当数は八十数軒。家が密集してないところ担当しているので多いほうなんだとか。その半分をオレに任せるそうだ。


 もっとでも構わないが、やはり新人には振れないのだろう。辞められても困るだろうしな。


 四十軒なので簡単に覚えられたが、一週間は一緒に回ることに。覚えたことを確認したら一人で回ることになった。


「純くん、疲れたかい?」


「全然ですよ! 体力があり余っているので町まで行ってみます。走れば店が開く時間でしょう」


「は、走って行くのか?」


「はい。七キロくらいですし」


 このままでは体が鈍ってしまう。走って行って走って帰るとしよう。


「それなら高湯に荷物を運んでみないか?」


 高湯? お湯? あ、温泉があったな。一応、高湯も庭坂だった。


「いいですよ」


「あっさりだな。急な坂道だから過酷だぞ。車で運ぶようにはなったが、まだまだ運べる量は少ない。馬を持つのも少なくなって困っていると相談されてたんだ」


「やりますやります。リヤカーを使えば結構な量を運べるでしょうよ。試しにやってみますか? 出来ると言っても信じられないでしょうからね」


 と言うことで、高湯にある玉湯旅館の社長さんがやって来た。


 六十くらいの男性で、なんか小さいおじさんだった。


「この人かい?」


「戸川純です。赤岩に住んでます。ここには走って来てます」


「あそこから? かなりの距離だろう。それを毎日?」


 赤岩を知っていたようで、凄く驚いていた。


「はい。近いものですよ。たまに山の中を突っ切って来てます」


「……凄いな……」 


「大したことありませんよ。今日、荷物を積んで高湯に向かってみますよ。旦那さんも乗って確かめてください」


 リヤカーは配達所の旦那さんが用意してくれ、自転車と合体させてくれた。紐で。大丈夫か、これ? 付与魔法で全体を強化しておくとしよう。


「酒屋でビールを運びたいんだが、構わんか?」


「構いませんよ。揺れるので底に座布団を敷いて、新聞紙を丸めて挟みますか」


 酒屋は販売所の近くにあり、ビールを四ケースとサイダー二ケースを積んだ。


「サイダーなんてあったんですね」


 観屋商会? 有名なんか?


「地元の商会が造っているんだよ。着いたら地下室で冷やしたものをのませてやるよ」


 この時代、コンビニどころか自販機もない。夜の七時には店は閉まってしまう。異世界を知っていなければ発狂していることだろうよ。


 玉湯旅館の社長さんを乗せて高湯へと出発進行!


 アスファルトではないので揺れが激しいが、異世界で鍛えた脚力はびくともしない。あんな坂こんな坂なんのその、だ。


 なかなか悪路ではあり、急な坂が続くが、山脈を越えるより楽なものだ。こうして道はあり、標高も高くないんだからな。


 ただ、瓶が割れない速度だったので一時間も掛かってしまったよ。


「疲れただろう?」


「なんのなんの。あと三回くらいは余裕で往復できますよ」


 事実、汗も流れてないし、息も切らしてはいない。平坦な道を五分くらい歩いたにすぎないエネルギー消費だろうよ。


「瓶じゃなきゃ、三十分も掛からなかったんですけどね。さすがにあの道では飛ばせませんでした」


「いやはやとんだバケモンだな。馬でも苦労するのに」


「ふっふっふ。馬なんかには負けませんよ」


 なんなら馬を担いでもやって来れる距離だわ。


「呆れるばかりだが、また運んでくれるならお願いするよ。最近、観光客が増えて困っていたんだよ」


「お客さんは、なにで来るんです?」


「一応、バスで来るが、雨が降ったりすると止まってしまうな。そんときは歩きだ」


 さすが昭和。平成の人間なら歩いてやって来ようとは思わないだろう。軽く登山だったわ。


「電話するから明日も頼まれてくれるか? 給金は弾むから」


「へー。電話なんてあったんですね」


 確かに電線はあったが、まだこの時代で電話を見てないわ。

 

「去年、やっと繋がったよ。電話の時代がやって来るんだろうな」

 

 六十年後は一人一台の時代になってますよ。


「帰りに湯に入るといい。三百年以上続く名湯だからな」


 へー、そうなんだ。それなら今度、とーさんやかーさんを連れて泊まりに来るか。温泉のよさがわかる年代となったからな。


「じゃあ、すまないが、こっちに運んでもらえるかい」


「はーい!」


 三段重ねにしてケースを運び、地下室で冷えた瓶のサイダーをいただいた。うめー! なにこの美味さは!? 昭和時代のサイダースゲー! コーラなんかより断然こっちのほうが好きだわ!


「動いたあとのサイダーは格別ですね!」


「牛乳も運びたいんだが、毎朝はどうしてもな」


「なら牛乳も運びますよ」


「そ、そうかい? じゃあ、頼もうかね。運搬費は弾むよ」


「ありがとうございました! 任せてください!」


 風呂上がりにはやっぱ牛乳だろう。帰りに買って行こうっと。


 ──────────────────────

 福島市には高湯たかゆ土湯つちゆ微温湯ぬるゆ飯坂いいざか温泉がある。興味があったら調べてください。


 高湯は臭い。効きそう。

 微温湯はぬるい。湯治宿

 飯坂は熱い。江戸っ子か!

 土湯は普通。宿はいい。

 

 

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