同じ作者の『物語に選ばれし者』があれほど荘厳な擬古文で源氏物語を描いていたのに、本作はその対極を行く現代語の論破コメディという、振れ幅の大きさにまず驚かされました。冒頭の実家での母娘の口論――「それって、お母さんの感想だよね」「統計データある?」という畳み掛けは、令和の「論破系」の語り口を見事に体現していて、笑いながらもどこか身に覚えのある気恥ずかしさを感じさせます。
転生後の状況分析がコメディとして秀逸です。動揺するでも騒ぐでもなく、女房たちの態度や言葉の端々から自分の立場を冷静に分析し、「あ、これ」「勝ち組マウント、取れる側だ」と結論づける過程は、感情を排した論理的な思考回路をそのままギャグに転化した独自の笑いのセンスを感じました。明石の君という、源氏物語の中でも「恋愛の主役ではないが安定した未来を持つ」キャラクターを選んだ点も的確で、「この世界の通貨は、お気持ち表明らしい」という最後の一文に、これから始まる痛快な無双劇への期待が一気に高まります。
レビューにある「感情に呑まれない強さ」としての読み替えという評価通り、恋愛至上主義の平安京を、現代の管理職女性の合理的な視点でばっさり斬っていくという構図は新鮮で、源氏物語を知らない読者でも十分に笑える導入になっていました。あとがきで触れられている「正月に書き散らした」という気軽な成立過程も、本作の軽快なテンポの良さに表れています。
全5話の短編コメディとして、肩の力を抜いて笑える一作でした。