沼地に潜む妖の名は「沼御前」。 幾星霜を喰らう冷血の蛇であるが、塵芥の一粒ほどであろう人の残滓が奥底を流れている。 悠久の時を生きる存在は、その刹那に惑い苛立つ――・ 超常の存在が持つ、高貴にも似た傲慢、そして哀れみが表現された一作。 安易な擬人化に走らず、妖を妖――理解の及ばないもののまま描いた点が秀逸である。 奥底に流れる異物を呑み込めないまま、時は流れ続けるのだろう。記す者がなくなった後も。