第13話 試験前日

 Dランク試験の前日、樹は協会のサイトから過去問をダウンロードした。


 五年分。全三百問。


 内容は三分野だ。探索者協会の規定と倫理、ダンジョン内安全管理、モンスター生態学の基礎知識。


 三時間で全問を解いた。


 正答率を計算する。規定と倫理:九十八%。安全管理:百%。モンスター生態学:九十一%。


(生態学が低い)


 理由はすぐわかった。実戦で出会ったことのないモンスターの問題が数問あった。データが不足している。


 その箇所だけ重点的に読み込む。一時間で補完できた。


(準備は終わった)


 夜、花音からメッセージが来た。


【明日の試験、緊張してきました】

【どの部分が不安ですか】

【モンスター生態学です。ランク外のモンスターの問題が出ることがあるって聞いて】

【過去五年分を見る限り、ランク外の問題は全体の五%以下です。そこに時間をかけるより、頻出分野を固めた方が効率がいい】

【なるほど……樹くんって試験勉強も効率的なんですね】

【当然だ】

【笑 でもなんか安心しました】


 少し間があって、また花音からメッセージが来た。


【合格したらご飯行きませんか。お祝いに】

【合格してから考える】

【もう合格する気でいてください!】

【合格する予定だ。ただ、結果が出る前に祝うのは非合理的だ】

【……樹くんって本当にそういうところありますよね】

【何が】

【いいです、笑。じゃあ合格したらご飯ね。約束】


 樹は返信を考えた。


【わかった】


 それだけ送って、スマホを閉じた。



 試験は明日の朝九時だ。


 睡眠は七時間取る予定だ。睡眠不足は判断力を下げる。これも効率の話だ。


「緊張する要素がない」


 樹は一人でそう呟いた。


 準備は完了している。データは揃っている。あとは実行するだけだ。


 布団に入って、目を閉じた。


 花音との「ご飯の約束」が、なぜか頭の片隅に残っていた。


(非合理だ)


 そう思いながら、樹はすぐに眠った。



                           ――続く



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【作者コメント】

第13話です。お読みいただきありがとうございます。


試験前日の静かな回でした。

「合格する予定だ」という樹と、「もう合格する気でいてください」という花音。このやり取りが好きです。ご飯の約束が「非合理だ」なのに頭に残っている樹——少しずつ変わっています。明日はいよいよ試験本番です。


                       日向 なつ

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