第二章 飛び込んできたトラブル 2)恋心

 嵐のように、サタン様一行が去ったあと。

 ルシファー様にコーヒーお出しするの、つらいなあ。

あのブレスレットは今日もつけている。貰った日からずっと肌身離さず。

「俺は……」

 ルシファー様は気まずそうに何か言いかけたが。

「お席にご案内しますね!」

 わざと空元気で笑顔を作って応対する。期待していた自分が愚かなのだ。早く忘れてしまえ。消えろ、こんな感情。

「エリィ、こっちを向け」

 気が付けば、ルシファー様が私の腕を取っていた。そしてあのデートの日以来、初めてお店でちゃんと名前を呼んでくれたことに気づく。

「自分がどんな顔をしているか気づいているか?」

 そう言われてやっと自分が涙をこぼしていることに気づいた。ぽたぽたと、頬を伝って床へこぼれる涙はとめどない。

「俺の気持ちは、好意と思ってもらって構わない」

「え……?」

 私の事好きだって、思ってもいいのかな。

「おい、何でエリィが泣いてんだ!? てめぇ、泣かせたのか!!」

 そこへアレウス君が割って入ってきた。モーニングが終わり、シフトの時間になったのだろう。

「違うの、これは……」

 なんと説明できようか。

「何も違わねぇ。てめぇはエリィを泣かせた」

 そう言ったアレウス君は、ルシファー様の胸倉をつかむ。一方、ルシファー様はされるがままだ。

「黙ったままってことは、肯定ってことで合ってんだよな、あぁ?」

「すまない、エリィ、俺はお前を傷つけた」

 そう言って、ルシファー様は目を伏せた。あの美しい青が隠されてしまう。ふっと胸がぎゅっとなったことで、私は自分の気持ちを自覚した。

 そうだ、私はルシファー様が好きだ。まだ、ほんの少ししか知らないあなたのことが、好きなんです。

 自覚した途端、涙が止まらなかった。私の腕をつかむルシファー様の力が強くなる。

「エリィ、すまなかった」

 腕が離されてしまう。嫌だ、行かないで。

「出直すことにする、また日を改めよう」

「ケッ、二度と来んな」

 アレウス君が、ルシファー様の胸倉を突き飛ばすように放した。




「ちょっと、エリィってば聞いてるのォ?」

 あの件以来、ルシファー様が店に来なくなって1週間が経ってしまった。私は未練がましく、ブレスレットをまだつけている。

「すみません、聞いてませんでした」

「もう、しょうがない子ネェ。アンタのコーヒー、テイクアウト始めようって話してたのよ?」

 マギーさんとの朝食が終わって、皿洗いをしていた。今日も何枚も皿を落としてしまいそうになりながら、マギーさんに魔法で助けてもらっていた。

「でも、それだとアンタへの負担がきついわ」

「はぁ」

「しっかりしてほしいわァ。いつになく腑抜けてるじゃない。考えてるのはルシファー様のことね?」

「な、んで、それを……」

 また皿が落下して床にぶつかる寸前で止まる。マギーさんの魔法で助けられた。

「そのブレスレット、ルシファー様にもらったのよね?」

「はい、どうして知ってるんですか」

「あからさまなのよッ」

 そう叫んでマギーさんは皿を洗い終え、手を拭いたタオルを引きちぎれそうなほど両端から引っ張った。スパーンと小気味よい音が響く。

「そのブレスレットからあいつの魔力が苦々しいほど沸いてるわ。なんてもん押し付けられてるのよ!」

 このブレスレットはお守りのようなものだったはずだが、何か良くなかったのだろうか。いや、その前にマギーさん、あいつって言いました?

「魔力検知できて、あいつの魔力を知ってる奴なら、まず近寄っては来ないでしょうね」

「そんなすごいものなんですね」

「マーキングの意味合いもあるけど、アンタはそれでいいの?」

「私は――」

 すうっと一息吸って言った。

「ルシファー様が好きです」

 心がほわりと温かくなる。

「そう、ならいいわ。返答次第ではあいつボコしてたけど。じゃ、恋のパワーでテイクアウト業務も頼めるわね?」

「はい!」

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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜 長良リコ @Nagara_riko

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