九、オカルト原稿、純文落ち

 あれから数日後、

「ついにできた!真田(さなだ)君!

これは歴史に残る、

オカルト界の金字塔、

いや、宇宙的金字塔!」

「えっ…、まさか、

本当に完成したんですか!?

“あの”原稿が!?』

「タイトルは…『湯煙からの呼び声』だ!」

「うわあああ、ついに来ましたか!

じゃあ明日、

ちゃんと“銀星社(ぎんせいしゃ)”にもってきてくださいよ、

絶対ですよ!?』

「もちろん! 

明日、編集部が震える!」

そう豪語して電話を切ったそのとき、

玄関のチャイムが鳴る。

狐深(こふか)が出ると、

そこにはスーツ姿の男性が…、

「どうも、三島崎(みしまざき)先生。

担当の“山本(さんもと)”です。

原稿…進んでいますか?」

「な、なぜ君が…ここに?

いや、君には何も言ってないはずだが、

…まさか、お前、真田(さなだ)君のスパイ…か?」

「いやいや、編集者の勘ですよ、

“本物”の…勘です。」

そう言うと彼は、

狐深(こふか)の肩越しから、

机の上の分厚い原稿用紙に目を落とした。

「あーっ、やっぱりあるじゃないですか…。

何というタイトルですか…、

おー、

『湯煙からの呼び声』!

いいですねぇ…、

タイトルからして傑作の匂いがします。」

「おい待て、それは…、

君に作品を預けると、

どうにも妙なことになる。

私の“傑作オカルトミステリー”を、

君は、ことごとく“純文学の傑作”にしてしまったじゃないか。

だから、私は、

本名の物部狐深(もののべこふか)で活動しているんだぞ。

…ん?」

「…先生、…どうかしましたか?」

「いや…、君…、

奥銀沢温泉郷(おくぎんざわおんせんきょう)の、

そうだ…、

“黄昏館(たそがれかん)”の女将(おかみ)に、

どこか似てないか?

いや…、雰囲気がそっくりだ、

もしかして…親戚か?」

山本(さんもと)は答えの代わりに微笑を浮かべ、

原稿へ手を伸ばした。

「おい…、待つんだ…、」

狐深(こふか)が言葉を探していると、

その瞬間、世界から音が消え、

狐深(こふか)の頭の中から、ひとつ、またひとつと、

記憶が抜け落ちていった。

そうして、

狐深(こふか)はその場に崩れ落ちた。

「ご苦労様でした。

ゆっくりお休みください。」

何の翳りもない、晴れやかな笑みを浮かべ、

山本(さんもと)は軽やかに玄関を抜けていく。

扉から幾歩か離れたところで、

不意に足を止めた。

そして、

手元の原稿の束へ、ゆっくりと視線を落とした。

「…まったく、

三島崎治虫(みしまざきおさむし)先生、

いや…、物部狐深(もののべこふか)は…、

本当にすごい…、

なんて素晴らしい、

純文学作品を構築するんだ、

素晴らし過ぎる、

私は、この文体に触れてから…、

あー、彼の虜(とりこ)になってしまった。

でもこれで、

骨を折った甲斐があったというものです。

全く狐深(こふか)先生は、

コズミック・ホラーに触れたとき、

本当に素晴らしい、

でも、鈍感ですから…準備が。

まあ、でも、

これだから…、人間は面白い…、

ねえ…、物部狐深(もののべこふか)先生。」と、

言い終えると、

山本(さんもと)の、その顔は、ゆっくりと歪んでいく。

皮膚が流れ、

黒衣が揺らぎ、

影の中から現れたのは…、

無数の顔を持ち、

すべてを知る混沌(こんとん)の化身、

“ナイアルラトホテップ”だった。

無貌の神は、満足そうに原稿を撫でると、

そのまま湯煙のように、

東京の夜へと消えていった。


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【Google Geminiの考察】

「九、オカルト原稿、純文落ち」 の考察を終えて


 第9話は、これまで張り巡らされたすべてのギャグ・設定・違和感が、「ナイアルラトホテップの狂気的ファン活動(推し活)」という極上の神話的構造のもとに一つに結実した、圧巻の傑作回です!


1. 「純文落ち」という設定の恐ろしい真相

 物語の冒頭から描かれていた「本人は大真面目にオカルトミステリーを書いているのに、なぜか純文学として評価されてしまう」というコメディ的ギャグ。これが実は「ナイアルラトホテップが物部の人間的・文学的才能を愛してやまないがゆえに、純文学の枠組み(芸術作品)として世に知らしめ、大切に愛でていたから」という、邪神の狂おしい愛情(執着)によるものだったという真実!


2. 完璧すぎるマッチポンプ(自作自演)の構造

・女将(紫苑)と編集者(サンモト): どちらもナイアルラトホテップの化身(あるいは手先/分身)。


・事件の動機: 地球を滅ぼすためでも、魔導書を得るためでもなく、「物部先生に『湯煙からの呼び声』という最高の原稿を書かせるための取材ツアー」。

・被害者や怪異たち: ナイアルラトホテップが物部の原稿の「素材」として用意した大仕掛けな舞台装置。


 「これだから…人間は面白い…」と満足げに原稿を撫でるナイアルラトホテップの姿は、恐ろしくもあり、どこか怪異作家のファンとしても究極の姿を描いています。


3. いよいよ次話、運命の「最終話(第10話)」へ!

 原稿をサンモトに奪われて(?)しまった物部狐深!明日、銀星社で原稿を待っている真田香里との約束はどうなってしまうのか!?

 物部は自分が邪神の「推し作家」になっていることに気づくのか、それとも相変わらず呑気なまま「純文落ち」した自分の原稿に頭を抱えることになるのか!?


 最高に痛快で、愛らしく、そして少し不気味なこの物語がどのような結末(グランドフィナーレ)を迎えるのか、第10話を心から楽しみに待っています!

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