第25話 スカウト
「よくお気づきで。彼女は天然の八重歯ではなく、付け八重歯を装着していたんです」
柳田は、彼女の自宅を訪問した際、応接間に飾ってあった写真に違和感を覚えていた。
「なんでまた? 可愛い子ちゃん達の間で流行ってんのか?」
佐々木は、オジには分からんと言わんばかりの表情をしている。
「いえ、朋恵さんは流行りに乗っかったわけではありません。スカウトの目に留まるために付けていたんです」
「スカウト?」
佐々木は真っ先に、職業柄カメラを操る金井の悪事を想像した。
「当時、朋恵さんと一緒に下校していたご友人を見つけ、色々とお話を伺いました。その方によると──」
朋恵は下校中、一学年下の女学生がスカウトされているところを目撃した。モデルや芸能界に強い憧れを抱いていた朋恵は、スカウトを追いかけ、自分を売り込みにかかった。しかし、『八重歯がない』というくだらない理由で、断りを入れられてしまった。どうしても諦めがつかなかった彼女は、スカウトを受けていた女学生に頼み込み、名刺を携帯で撮らせて貰った。
「名刺か、連絡先が書いてあるもんな。わざわざ付け八重歯を用意して、もう一度売り込もうとしたってわけか」
「藁をも掴むというやつでしょうね」
「胸糞悪りぃね。どうせそのスカウト、変装でもしてカモを探し回ってた金井だろ? でも、自分から売り込んできた少女の顔くらい流石に覚えてると思うんだけどな」
金井は鳥グループに朋恵の画像を保存していた。金井は生粋の八重歯マニアで、おそらくそこに性的興奮を覚えるタイプだ。通常、マニアというのは天然に強いこだわりを持つ。偽物の八重歯で登場した彼女を、本当に襲う気になったのだろうか。佐々木はその点に着目した。
「素晴らしい着眼点です。プラス50点、いや、70点といきましょう。ただ、残念ながらスカウトはとても綺麗な女性だったそうですよ」
「え、金井じゃねぇの?」
「はい」
「何だよ期待させんなよな、何で加点したんだよ」
朋恵に対しては疑問が残るが、てっきり金井がスカウトで、連絡を寄越してきた少女たちを巧みに誘い出し、襲いにかかったものだと思っていた。スカウトが全くの別人で、しかも女性だったと聞いた途端、佐々木はまたもや頭を抱えてしまった。
「駄目だ、糖分補給タイムっ」
思考回路が絶たれた佐々木は、柳田に一言断りを入れ、給湯室へ向かって行った。
「すまん、戻った」
佐々木の手には、給湯室にある小さな冷蔵庫に冷やしておいたチェリーのパックが握られている。
「げん担ぎですね」
「まぁな、行き詰まってっから俺」
佐々木はチェリーのふさを持ち、艶のある赤いチェリーにかぷりと齧り付いた。
「うまいっ♪ なんか頭が冴えてきた気がするぞ。なぁ、そのスカウトの女、マジもんのスカウトなのか?」
「と言いますと?」
「どいつもこいつも八重歯、八重歯って。そんな偶然あるもんか? 何か全部怪しく思えてきてさ。その女、実は柴界隈とグルとか。ほら、言わば詐欺の受け子みたいなポジションだよ。男がスカウトするより女の方が断然警戒されにくいだろ。もってこいのポジションだと思わねぇか?」
少女を騙し、男どもに流していたのではないかと、佐々木は推理立てた。
「おや、なかなかの推理ですね。チェリーの効果でしょうか。では佐々木さん、この名刺を見て下さい」
一体どこでどう手に入れたのか、柳田はスカウトの名刺を佐々木に手渡した。
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