第16話 個人情報

「なぁ、金井の野郎、相当ヤバいことしてたんだろ。こりゃ怨恨の線で間違いないだろうよ」


 モデルになりたいという子に目星をつけ、カメラマンという立場を利用して近づいた線が濃厚になってきた。


「では、どなたが金井さんに手を掛けたと思います?」

「え⁉︎ そ、それは……まだ分かんねぇけど。騙した女の子達の誰かだろうよ」

「金井さんは毒殺です。しかも青酸カリ中毒ですよ。そう簡単に手に入れられる毒ではありませんよね」

「確かに、そうだよな」


 青酸カリの管理には厳しいガイドラインがあり、高校生が難なく手に入れられる代物ではない。


「では佐々木さん、今度はSNSの隠語で『柴』が使われていないか調べあげておいて下さい。僕が調べれば早いのですが、ちょっと用事がありますから」


 柳田はそう言うと、何やらチケットを手にして足早にその場を去ろうとした。


「おい柳田、どうしたんだよそれ。何なんだよそのチケット」

「あぁこれですか。ふふ。駅前のカフェで珈琲サブレの試食があるようで」

「は⁉︎」

「チケットを持っていくと、いただけるそうなんですよ」


 佐々木は開いた口が塞がらない。


「なぁ柳田、今俺たちが追っているのは殺人事件なんだよな? そうだよな?」

「はい」


 佐々木はまるでフグのように膨れだした。


「はい、じゃねぇよ。何サブレを優先してんだよっ。俺には散々言っておきながら」


 佐々木は可愛い子に浮かれていた時のことを言っている。これは事件なんだと、柳田に喝を入れられたからだ。


「おや、僕が付きっきりじゃないと満足に調べられないということでしょうか」

「え⁉︎」

「僕は教育係です。いつまでも僕が手を貸していては良くありませんよね。だから、今回は佐々木さん、あなたにお任せします。では」


 佐々木はその後、柳田を詰めることが出来ず、彼の後ろ姿を一人寂しく眺めることになった。


「あんの野郎、全くよぉっ」


 愚痴ぐち言いながらしばらくの間サイトを漁っていると、それを見かねた兵頭が声を掛けてきた。


「少し手伝おうか」

「え、いいんすか? でも、もう上がりの時間でしょう?」

「いいよ、何か大変そうだし。捜査の役に立つなら手伝うよ」


 佐々木は違う意味で眉を八の字にさせた。兵頭がバディならどれだけ楽だったろうか。佐々木はサブレを堪能している柳田を思い浮かべた。


「皆んな見事にSNSにハマっているみたいだね。この子なんて、特定犯ってやつがウジャウジャいるのに制服でアップしちまってるよ。全く、危機管理がなってないな」


 兵頭は腕組みをしながら呆れ返っている。


「なぁ佐々木くん、その鳥グループの中に『柴』がつく名前の子はいなかったのかい?」

「はい、そこは僕らも何とか調べ上げたんですけど、誰も……。それに、柳田がガイシャとやり取りのあった人物の中に、『柴』がつく名前の男を二人見つけたんですけど、完璧なアリバイがあったみたいで」

「そうかぁ。じゃあ、引き続き隠語に使われていないか手分けして調べていこう」

「頼んますっ」


 その後、しばらくサイトと睨めっこをしていた佐々木だが、何の手がかりも掴めず、苛々し始めた。


「おや、佐々木さん地震かと思いましたよ」


 柳田は佐々木の貧乏ゆすりを指摘した。


「何だよ全くよぉ」

「ところで、何か掴めましたか」

「勘の鋭いお前が、俺のこの様子を見て分からんとは思えないけどなっ‼︎‼︎」

「おや、ニコチン切れですか」

「うっせぇ」

「そんなにキリキリせず、続きを行いましょう」

「ったく、お前がやれよ。その方が早いだろ」

「どうしました、やる気が削がれているようですが」

「だってよぉ、俺、どうせお前みたいには頭働かねぇし」


 佐々木はニコチン切れで気が短くなっていると同時に、自虐も入り始めた。そこで柳田は、録音した音声を佐々木の耳元でそっと流し始めた。


『佐々木さん、美雪です。剛志がお世話になっております。今回も事件を追っているそうですね。頑張って下さい。応援しています』


 ‼︎‼︎‼︎‼︎


「そ、それは、み、美雪さんから俺へのラブコールじゃねぇかっ‼︎‼︎」


 佐々木は椅子から立ち上がると、両手を高々と上げガッツポーズを決めた。


「やる気が出たようですね。まぁ、ラブコールではありませんが」

「いや、女性は気持ちを上手く隠すからな。あれは間違いなくラブコールだっ。よっしゃ、気を引き締めて頑張るぜっ。美雪さんに良いところ見せつけねぇとなっ♡」

「……」


 相変わらずの単細胞ぶりに失笑していた柳田だったが、こうなることを予測して姉に依頼をかけた自分に大満足していた。

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