第13話 金井という男
柳田が鰻を堪能する中、佐々木は膨れっ面をしながらお冷をすすっていた。
「実は姉も鰻が大好きなんですよ。ここのお店をおすすめしておきます」
「な⁉︎ そうなのか⁉︎ お、俺に連れてきて貰った、奢って貰ったって言っておけよ、なっ、なっ♪」
膨れっ面はどこへやら、今佐々木は太陽のような笑みを浮かべている。佐々木の七変化に柳田は失笑しつつも、実はそこそこ楽しんでいた。
「そろそろカフェインですね」
鰻屋を出てすぐ、口直しの珈琲が飲みたいと弟気質を醸し出してきた柳田に、今度は佐々木が失笑した。
「ったくしゃーねぇガキだな。いつも珈琲も奢って貰ってる、絶対素敵なお兄さんになるって、美雪さんにアピールしておけよっ」
「ふふ」
「何だよ、その含みのある笑みはっ」
こうして佐々木は、柳田を連れカフェに入り、自身はいつものクリームソーダ、柳田にはプレミアムブラックの珈琲を注文した。しばらくして、そろそろ店をお暇しようとしたその時、佐々木の携帯が鳴り響いた。
「ん? おっ、ブランド店のお姉さんからだ。あ、勘違いするなよ、業務連絡だからな」
佐々木の一言に、笑いを堪えながら柳田は小さく頷いた。
「購入履歴、全部出してくれたってさ。よっしゃ、行くか」
二人はカフェを出ると、颯爽とした足取りでブランドショップへと向かった。
「ご協力ありがとうございます」
情報を受け取った二人は、署に戻るなり会議室に籠ると、ひとつひとつぬかりなく目を通していった。
「あのオッさん、この一年あまりで馬鹿みたいに散財してやがるな」
「本当ですね。バッグの購入は6つ。勿論のこと、全て女性用です」
「何やらかしてたんだ、あのオッさん。いやらしい香りがぷんぷんするぜ」
ブランドショップの美人店員に、シレッと連絡先を渡した佐々木が言えるセリフではないと、柳田は密かに思った。
「ところで佐々木さん、金井さんの職業はフォトグラファーですよね。ちなみに覚えていますか? 河野さゆりさんのお母さんがさらっと言っていたことを」
「ん? 何だっけ」
「やはり、頭に入っていませんでしたか。マイナス100点といきたいところですが、鰻と珈琲の件もありますので、マイナス50点にしておきます」
「何だよぉ、結局マイナスくらうんじゃねぇか」
「当然です」
柳田は白目がちな三白眼で佐々木を見据えながら、淡々とした口調で説明しだした。
「さゆりさんのお母さんは、金井さんが風景写真で有名だから存じているとおっしゃっていました」
「あ、確かに言ってたな」
「これを見て下さい」
柳田は、フォトグラファー金井良太のホームページを開いた。そこには、数々の写真と共に、彼の仕事内容について事細かく記載されている。
「どう思います?」
「どうって、特には何も。綺麗な写真だなぁとしか」
「マイナス100点です……」
「は、はぁ⁉︎」
納得のいかない顔をしている佐々木をよそに、柳田はやれやれという表情で続きを話し始めた。
「金井さんは風景写真のスペシャリストです。お仕事内容をよく見て下さい。その旨がきちんと書かれています。間違いありません」
「まぁ、風景写真家だということは分かったよ。で?」
「で? じゃありませんよ全く。彼はわざわざモデルを雇う必要などないということです。佐々木さん、理解出来ていますか?」
柳田の呆れ返った表情を目の当たりにした佐々木は、気まづさを紛らわせるかのように頭をボリボリと掻いた。
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