これは作者の既出作【壇ノ浦の阿修羅】と
対を成す源平合戦の 一コマ を切り取った
あたかも禅問答の如き譚。
尤も、前作品が敗走する平家の若武者と
上官との禅問答であるとすれば、こちらは
勝者源氏の、と或る 父と子 の師事問答。
まだ幼い頃から槍を学び、戦さ場に出て
手柄を挙げる。
穴を開ける事が槍の仕事であり、又その
人に開く穴を見極めて落とすのが彼の
仕事でもある。
だがしかし、壇ノ浦の合戦のさ中にあって
一瞬、動きが止まる。
貫かんとする鋭い槍の先に 子供の顔 が。
それは戦に不慣れな若い歩兵でもあろうか。
彼は全く何事かも分からぬままに、
槍に貫かれて地に落ちる。呆気に取られた
その瞳を閉じる間もなく声にもならない
音を残して。
何故に、争うのか。
源氏に生まれただけの只の人である。
自らに穴が開く音を聞いたか、と父は問う。
それは諸行無常の理でもあるのだろう。
槍で穴を開けるという事は、自らにも穴が
開くということ。
開くのを待っていたら開かないまま死ぬ。
それだけはわかった。
そう言った父も又、戦さ場を彷徨っている。
光陰矢の如し、貫く槍も又。
恐ろしいのか、恐ろしさを知るべきか
知らざるべきかを測る間もなく
寄せては退いて行く波濤の如く。
何を軸に据えれば良いのか。
取り敢えず、長槍は手の内にある。