この作品をひと言で表すなら「誠実さ」だと思います。
10歳で即位した少女王ステラ。彼女の造形は見事です。「わたしは、まだ子どもです」と自ら宣誓する場面は、型破りな天才児の演出ではなく、等身大の不安を隠さない誠実さとして描かれます。定型文で済む礼状を、一通ずつ相手を思い浮かべて書き直す。負けたチェスの盤面を、納得するまで巻き戻して検証する。「負けを認めることと、負けたままで終わることは、別だ」という彼女の姿勢は、そのまま帳簿の不正を粘り強く追う本編の行動原理に繋がっています。派手な覚醒も無双もなく、それでいて王がただものではないことが充分に伝わってくる。この抑制の効いた人物造形は、称賛されるべきだと思います。
構成も丁寧です。各話の冒頭に「後年のノアが記した歴史書」からの引用を置く年代記のフォーマットは、アシモフの『ファウンデーション』を思わせます。しかもその記録者自身が本編の視点人物であるという入れ子構造。会話の中に作中用語がさらりと置かれ、過剰な説明をしない筆致も、この種の物語の愛好家にはたまらないはずです。
物語の中核は、数字の矛盾を追う政治・財政ドラマです。凍死者数と補給記録の食い違い、綺麗すぎる帳簿。地味になりがちな題材を、重すぎず難しすぎず、記録局の軽妙な掛け合いと数字の向こうにある人の暮らしへの眼差しで、絶妙なバランスに保っています。このバランスは相当苦心されたはずで、作者様はやりきっています。16話「北の王子」は出色でした。
一点だけ細かい指摘を。6話の炭市場の描写「黒炭。薪炭。圧縮炭。」ですが、「薪炭」は薪と炭の総称(電気ガスのような複合語)なので、炭の種類の列挙には馴染まないかもしれません。例えば「黒炭。練炭。圧縮炭。」とすれば、再生燃料である練炭が並ぶことで、物資不足に苦慮する庶民の暮らしまで一語で伝わるように思います。
そして最後に、僭越ながらの提案です。この作品、あらすじが内容の魅力を伝えきれていない気がしています。要素が並列に羅列され、どんな物語なのかの焦点が絞りにくい。そこで、勝手ながらリライト案を作ってみました。
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これは、一人の少女が王となるまでの物語。
歴代最年少、わずか10歳でアステリア王国第四十三代国王となった少女「ステラ・ゼフィール」。彼女に託されたのは、王国最大の課題――冬越し政策だった。
毎年増え続ける凍死者。
冬税、備蓄不足、炭価高騰。
民が苦しむ現実がある一方で、評議会へ提出された記録には不自然な数字が並んでいた。
王室記録局の見習い書記官、ノア。
彼とともに資料を調べ始めたステラは、やがて王国が長年見過ごしてきた”不都合な現実”と向き合うことになる。
仲間たちに支えられながら、幼き王は数字の向こうにいる人々の暮らしを知り、王として何を守るべきかを学んでいく。
これは、一人の少女が王となるまでの物語。
そして、王国の”冬”に埋もれた真実を溶かし、記録するーー物語。
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作品の中身は、あらすじの何倍も面白い。それを知ってもらえないのは、あまりにもったいない。そう思っての提案です。読めば分かる魅力が、この物語にはあります。
冒頭の「作中作の歴史書」からの引用という演出が、世界観に一気に厚みを持たせていて素晴らしいです。
冷酷な冬を前に揺らぐアステリア王国の政治的緊張感と、大人たちの都合で「王」を着せられた10歳の少女のリアルな震え。
それを記録する立場である見習い書記官ノアの視点が見事に噛み合っており、1話目にして非常に格調高いドラマが完成しています。
特に「作中作」を活かした重厚な歴史の地続き感が読んでて凄いと感じます。
冒頭の『星冠記録官ノア・フェルディン著』という一文により、読者は「これは後に歴史に名を残す二人の、始まりの物語なのだ」という強烈なワクワク感を持って本編に入ることができます。
貴族子女の「家の内にある時代」という独自の児童教育設定も、10歳での戴冠がいかに異例で残酷かを際立たせる見事な世界観設計です。