第6話 臨場

事件の情報は玉石混交に思えた。

現役の配信者が逮捕された殺人事件とあって、世間の注目は高かった。

被害者は三十八歳の会社員、鈴木淳也。

発見されたのは八月十四日の朝。

森林の遊歩道をランニングしていた男性からの通報だった。

『首を吊っている死体がある』



「なるほど」

千早は遊歩道から規制線を眺めていた。

もう捜査員の姿は周囲には無い。

二十メートルほど先のハリギリが遺体のあった木らしい。

(一般人がこの距離から見れば、確かにそう言うだろうな)

後の調べで遺体の首には吉川線が確認されたのと、遺書も踏み台も無いことから絞殺されたものと警察は断定した。

(納得いかないな)

千早の胸に犯人の行動の妙が、違和感の棘となって刺さっていた。

(こんなに雑な偽装をする犯人が、わざわざ遊歩道から奥に入って吊るすのだろうか)

現にもっと近くに太い枝を広げたハルニレがあった。

(ハリギリは鋭い棘が沢山あるのに......)

(遺体を奥まで運ぶ理由は隠蔽だ。だが、実際は目立つ位置に)

(偽装だと看破される為の偽装)

「——なるほど」

千早はもう一度そう言うと踵を返した。



笠木警察署は笠木市の旧市街地にあった。

炭鉱が閉山した後は街の賑わいは国道側へと移ってしまった。

だが市庁舎をはじめ、公共機関の多くは旧市街に残り——いや、取り残された。

「捜査一課の音尾刑事をお願いします」

千早が受け付けの制服警官にそう告げると、内線を掛けた警官は済まなそうに表情を曇らせた。

「ただいま外出中のようですね。戻り次第、電話させましょうか」

「そうですね......」

千早は思案する素振りだけ見せてから言った。

「高木光一にこだわってたら、今井加奈の二の舞いになる——と、お伝え下さい」

そう言って踵を返したところで、力強く痛みを込めた悪意に肩を掴まれた。

「お早いおかえりですね」

この男が音尾刑事だろう。

千早はそう確信していた。

「手掛かりがここにあると聞きましてね」

音尾はそう言って柔く微笑むと、指先を鎖骨の近くに食い込ませた。


「探偵?あの国選弁護人の関係者じゃないのか」

音尾は鼻白むように、千早の名刺を手に言った。

そして少し考え込むと「本当に無関係なんだな」と、耳元で念打ちをした。

「もちろんですよ」

千早がそう言うと音尾は立ち上がって「第三取り調べ室を使うぞ」と周りの刑事に言うと、今度は優しく千早の袖を掴んで促した。

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