不本意な共犯

人の行き交う病院のロビー。消毒液の匂いと、くぐもったアナウンスの声。その椅子の一つに、あいつは腰掛けていた。

スマホを眺めながら、特に誰かを待っている様子もなく。

けれど俺の姿を見つけると、すぐに顔を上げた。

「その顔は、大丈夫そうだな」

「……まぁ」

それだけだった。

隣に座っても、柊真はそれ以上何も聞いてこない。

しばらく沈黙が続いて、先に口を開いたのは俺だった。

「……姉さんが、入院してて」

「へぇ、お姉さんいたんだ。意外」

「どういう意味だよ」

「別に」

相変わらず腹の立つ返事だった。

「……お前は兄弟いんの」

「いるよ。弟。六歳」

そこでふと思い出す。

あの、雨の日のこと。

「あの時の傘、弟のか」

「まぁ。迎え頼まれてたから」

なんだ、そういうことか。

雨の中へ消えていったあいつの背中に、ようやく答えが出た気がした。

少しの間、どう切り出すか迷う。

けれど結局、姉の顔が浮かんで口が動いた。

「……一個、頼みがある」

「なに」

「姉さんの前でだけ、友達のフリしてくれ。報酬は出す」

柊真は少し驚いた顔をしたあと、小さく呟いた。

「……フリ、ねぇ」

「嫌なら別にいい」

「……いや、やるよ。ただ、報酬はこっちから提示させてもらう」

そう言って向けられた視線に、なぜか嫌な予感がした。

「……一応聞くけど」

「それに至った経緯が知りたい。お前の性格上、簡単にそういう話しなさそうだし」

「……嫌」

「じゃあこの話はなしだな」

「お前鬼かよ」

「なんとでもどうぞ。でも、あんまりお姉さん待たせるのも良くないんじゃない?」

こんなことになるなら、最初から適当に理由を話しておけばよかった。

改めて聞かれると、余計に気恥ずかしい。

「……姉さんに、心配されたから」

「は?」

「姉さんに、友達いないんじゃないかって、心配されたんだよ」

「……っ、ふ」

「っ! 今笑ったろ!」

「いや、ごめん。あまりにも真剣な顔して言うから、もっと深刻な話かと――っ」

そう言って顔を背ける高瀬の肩が、小刻みに震えていた。

完全に笑ってる。

「人の悩み笑うとか最低じゃない!? もういい、お前には頼まない!」

勢いのまま立ち去ろうとすると、後ろから手首を掴まれた。

「ごめんって! 友達のフリ、すればいいんだろ? やるから。ほら、案内して?」

そう言いながらも、高瀬の顔はまだ少し笑っていた。

その事実が、何より羞恥心を刺激した。

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