転落事故で意識不明になった主人公・昌弘。
彼が目を覚ましたのは、自身がAIと共著した物語「ルージュリオン王国戦記」の世界だった。
ジャンルは、彼の愛してやまない異世界ファンタジー。
自分で作った話だからこそ、先の展開も熟知している。
領地の人々がこれから辿るはずの運命は、あまりに過酷なものだった。
昌弘(転生先では領主の次男アルベール)は、その運命を変えようと立ち上がる。
作者としての責任感か、キャラクターたちへの愛情か。きっとその両方だろう。
けれど、本作はそう簡単に事を進ませてはくれない。
その苦悩や不安や気づきが物語に厚みをもたせ、人間くさいドラマを堪能させてくれる。
あっという間に世界観へ引き込まれた。
ファンタジーを読み慣れない方にも、ぜひ一度触れてみていただきたい一作。
そして、侍女のリュシーが可愛い。
この世界はもう作り物ではない。だからこそ、そこにある「痛み」も「悲しみ」も、都合よくは消えてなくなるものではない。
主人公が迷い込んだ場所は、彼がAIの協力を経て書き上げたファンタジー小説の中だった。
そこに出てくる貴族になっていた彼は、自分を慕うリュシーたちのことを大切に思う。
だが、彼が「フィクション」の中の彼女たちに与えた運命は、とても過酷なものだっが……。
異世界転移・転生ストーリーのお約束のように、どうにか「原作知識」を使って状況を良くしようとする彼だったが、たとえかつては「物語を作った神」のような存在だったとしても、その一員に過ぎなくなった彼は万能と呼べる力なそ備わってはいなかった。
その果てで、取り返しのつかない事態も起こってしまい。
本作における「異世界転移」の描かれ方は、数多ある作品群とは一線を画するものがありました。
「現代における知識」の使い方ひとつとっても、「都合よく万能で事態を変えられるようなもの」とはなりえない。
あくまでも、文化水準として「現代の方がちょっとだけはマシ」といレベルの、ないよりは確実にいい、それでもきっと「いつかは救いに繋がるかも」と信じられる程度の、ごくごくささやかなもの。
けれど、万能ではないし都合よくもないからこそ、主人公である「彼」の願いの強さが強く伝わって来る。
「作り手としての責任の重み」と「生み出されてしまった世界に備わる痛み」。そこで生きようとする人々の必死さ。
ヒリヒリと来る「切実さ」に満たされたファンタジー。読後に強烈な感慨を抱かされる一作でした。
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