最強戦士は隠遁したいが、何故か周囲がそれを許してくれない

ヤン・ヒューリック

プロローグ

 星々を焦がし、数多の星系を巻き込んだ永きにわたる銀河大戦。その狂気にも似た闘争は、膨大な犠牲の果てにようやく終結の時を迎えた。


 膠着しきった戦線を打ち破り、人類陣営に決定的な勝利をもたらした最大の要因は、「アニマキナ」と呼ばれる存在の投入にあった。アニマキナとは、すなわち「生きている機械」を意味する機械生命体である 。


 その中でも、ゴルディアス・タイガー――通称「ゴルド」は、機械生命体アニマキナの中でも屈指の実力を持つ黄金の虎王であった 。本来の姿は、黄金の鎧をまとったような戦闘形態であり、虎王型アニマキナらしい圧倒的な威圧感を持っている 。彼は、数々の絶望的な戦況の中で部隊を率いてきた歴戦の指揮官であった 。


 単なる強者としてだけでなく、部隊をまとめて仲間を守り、戦局を読んでは時に自ら最前線へと飛び込み、敵陣を食い破る。


 冷製な判断力と臨機応変さを兼ねそろえた指揮官として、ゴルドは多くの勝利を導いてきた 。


 常に最適解を導き出し、仲間を生還させること。それが彼に与えられた役割であり、彼はそれをただ実直にこなし続けてきた。


 理知的で冷静でありながらも、面倒見がよく、他人の痛みや理不尽に敏感な彼の人間臭い性格は、多くの者から深く尊敬を集めていた 。


 しかし、平和が訪れた世界において、強大すぎる武力というものは、かつての敵よりも恐ろしい存在として為政者たちの目に映る。宇宙規模の戦場を生き抜き、単機で軍の拠点を制圧しかねない規格外の戦闘能力を持つアニマキナたちは、次第に危険視されるようになっていった 。


 平和な社会において、彼らの存在は不和の種でしかない。一部の特に危険視された個体たちは、恩賞という名のきれいな言葉で飾られながら、宇宙の辺境へと実質的に封印、あるいは隔離されていった 。


 ゴルドは、そうした陰湿な政治の駆け引きや、見え透いた権力闘争に、心の底から嫌気がさしていた 。長く戦い続け、英雄や指揮官という重い役割を背負い続けることに、彼はひどく疲弊していたのだ 。


 彼が望むのは、もはや新たな勲章でも権力でもない。誰の命も背負うことのない、ただ一人でのんびりと暮らす静かな生活だった。


 だからこそ、ゴルドは自ら軍の上層部に掛け合い、軍籍から身を引くことを選んだ。

 つまり軍と政治から完全に離れることを望んだのである。


 退役の対価と、これまでの戦いの報酬として彼が要求したのは、宇宙の果てにある、名もなき一つの辺境惑星の権利だった 。そこは、彼らの超科学文明圏からは「文明惑星」としてすら見なされていない、恒星間通信も宇宙文明も存在しない未開の星であった 。

 

 上層部の連中は、厄介な英雄が自ら僻地へと消えてくれることに内心でひどく安堵し、満面の笑みでその星の永久所有権をゴルドに譲渡した 。


 そして今、ゴルドを乗せた宇宙船は、その辺境の星へと向かって静かに宇宙空間を降下している。


 ゴルドは宇宙船のカーゴルームに鎮座し、持ち込んだ大量の物資を静かに見渡した。隠遁生活を送るにあたり、彼は超科学の粋を集めた多種多様な機械をこの星に持ち込んでいた 。


 彼にとって、機械いじりは何よりの大好きな趣味だからだ 。機械だからこそ、機会を好きになると揶揄されることもあったが、無機質なはずの機械を丁寧に動かせば、きちんと答えてくれる。その反応がゴルドは大好きだった。


 コンテナの中に眠る愛しの「玩具」たち。広大な土地を移動し、周辺を見て回るための反重力で飛ぶリパルサークラフト 。荒れ地を走破するためのバギーやバイク 。空からの視界を確保するための航空機やヘリ 。


 さらには生活の基盤となる個人用ラボ、個人用ファクトリー、修理用ドローンや部品生成装置に至るまで、完全に彼の趣味の世界がそこにあった 。


 中でも彼が心待ちにしているのは、自らの手で入念なカスタマイズを施した万能作業車である。


 無骨なキャタピラと強靭なアームを持つこの巨大な機械を使って、これからは大地を耕し、種を蒔き、作物を育てるのだ。破壊ではなく、創造と育成の営みが待っている。


その事実が、黄金の巨体の内にある人間臭い感情を静かに昂ぶらせるのを感じた 。


「ここなら……静かに暮らせる」


 ゴルドは誰に言うともなく、低く落ち着いた電子音声で呟いた 。理不尽な命令も、命を散らす部下も、ここにはいない 。


 ただのゴルディアス・タイガーという一個人として、のんびりと過ごすことができる 。彼は胸の奥にある動力コアが、新生活への強い憧れに共鳴するように心地よく脈打つのを感じながら、目前に迫る豊かな緑の惑星を見つめていた 。


 この静かで穏やかな一人きりの隠遁生活が、やがて星を揺るがす大騒動へと発展していくことなど、この時の黄金の隠者はまだ知る由もなかった。

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