フェイズ2:彼女の “今”

 ───降られた。

 夕立ちなどと趣深いものではない。いわゆるゲリラ豪雨だ。

 薄暮の水幕を突っ切り、小柄な少女が駆けていく。

 胸の前に通学鞄を掻き抱き、傘もささずまっしぐら。

 向かう先には、古風なレンガ壁のアパートメント・ビル。重厚なエントランスゲートがそびえ立つ。セキュリティは通常の民間レベルを遥かに超えて厳重。けれど少女は立ち止まらない。

 三重認証式電子錠サーベラスを見やり、まばたき数度。


 ───blinkingまたたき───flickeringちらつき───glitteringきらめいて───


 可憐な瞳の周囲に、 か細く淡い星々が生まれて消える。

 〈能力エフェクト〉発動に伴う諸現象のひとつ、ハイラム=エフェルス浮遊光フローティングライトだ。


 ───twinklingピカピカ───tinkeringカチャカチャ───picking開けゴマ!───


 手も触れずに解錠オルフェウス得意技ルーティン

 勢い落とさずエントランスホールへと転がり込み───


「ぷはっ!」


 息を、吐いた。呼吸も忘れ走っていたのか。

 ぜいぜい荒く息をつきながら、抱えた鞄の中身を改める。中には折りたたまれた制服の上着ブレザーが一着。雨の被害を受けていないとわかり、ぱぁっと顔を輝かせる。


「……よかったぁ~」


 心配だったのだ。

 大事な、大事な制服だから。似合うと褒めてもらえた服だから。

 濡れた髪の間から、ぴょこっとハツカネズミが顔を覗かせた。その小さい喉元を、同じように小さい指先で、そっとくすぐるように撫でてやる。


「そうですね、帰ったらお風呂に入りましょう。そういえば、雨って───」


 授業で習ったばかりのことを楽しそうに語りながら、アンティークなエレベーターへと歩き出す。

 彼女の名は、塚杜望つかもり・のぞみ。あるいは、FHファルスハーツ工作員マグネイト“ネズミ”。

 中学3年生になっていた。

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