第10話「反撃の巨大弩弓と夜明け前の温かな野草茶」
胃の底から湧き上がる莫大な魔力が、血液を沸騰させるほどの熱となって全身の血管を駆け巡る。
私は広場の中央に大きく足を開いて立ち、両腕を巨像に向かって水平に突き出す。
頭の中に展開するのは、攻城兵器として歴史に名を残す巨大な弩弓、バリスタの緻密な設計図である。
土台は反動に耐えうる樫の木の巨木を組み合わせ、弦を引くための動力部には鋼鉄の歯車を何重にも噛み合わせる。
発射される杭は、空気抵抗を極限まで減らした流線型の黒鋼で構成し、先端には魔力を集束させるための螺旋の溝を刻み込む。
設計の全容が脳内で完全に固定された瞬間、指先から放たれた光の奔流が周囲の空間を激しく歪める。
光の粒子が空中で交差し、瞬く間に高さ3メートルを超える巨大な兵器の輪郭を形成していく。
木材が組み合わさる重厚な音と、金属部品が連結する甲高い音が広場に響き渡る。
完成したバリスタの背後に回り込み、私は全身の体重をかけて装填用の巨大なハンドルを回し始める。
太い鋼の弦がギリギリと軋みを上げながら後方へ引き絞られ、発射レールの上に黒鋼の杭が重い音を立てて装填される。
巨像は私たちの動きに反応し、頭部の赤い光をさらに強く輝かせてこちらへ向き直る。
「あの赤い光の奥にある核を狙う。胸の装甲を剥がしてくれ」
私が叫むと同時に、3人は見事な連携で巨像へと向かって散開する。
ミアが地面の砂を両手で掬い上げ、巨像の顔面に向かって力任せに投げつける。
視界を遮られた巨像が熱線の発射をためらった一瞬の隙を突き、ルミナが3本の矢を同時に弦につがえて放つ。
矢は巨像の胸部を覆う分厚い岩の装甲の継ぎ目に正確に突き刺さると、内部で小さな爆発を起こして岩の結合を緩ませる。
「そこを退きな。アタシがぶっ壊す」
ドリスが拠点の屋根から跳躍し、重力と自身の筋力を完全に同調させた一撃を巨像の胸部へと叩き落とす。
ハンマーの打点が岩の装甲の亀裂に命中し、雷が落ちたかのような轟音と共に巨像の胸元が大きく砕け散る。
崩れ落ちた岩の奥から、心臓のように脈打つ真紅の結晶体が姿を現す。
3人が着地と同時に左右へ跳んで射線を開けたのを確認し、私はバリスタの照準をその結晶体の中央に固定する。
『これで、終わりだ』
私は引き金となる太い鉄のレバーを、両手で力強く引き下ろす。
拘束から解き放たれた鋼の弦が空気を叩き割り、鼓膜が破れそうなほどの破裂音を生み出す。
発射された黒鋼の杭は視認できないほどの速度で空間を駆け抜け、巨像の胸の奥にある結晶体へと吸い込まれる。
硬質な破壊音が響き、杭の先端が結晶体を完全に貫通して背面の装甲ごと巨像の体をぶち抜く。
直後、核を失った巨像の全身から赤い光が急速に失われ、体を構成していた岩や土がただの瓦礫となって崩壊を始める。
地響きを立てて崩れ落ちる残骸を見届けながら、私はバリスタから手を離して深く息を吐き出す。
舞い上がった土煙が夜風に流されていくと、そこには無傷でそびえ立つ私たちの新しい拠点と、肩で息をする3人の姿があった。
ミアが真っ先に駆け寄ってきて、私の腰に抱きついて顔を擦り付ける。
「タクト、やったね。お城、壊されなくてよかった」
ドリスもハンマーを肩に担ぎ直し、満足げな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「全く、とんでもない武器を作り出すもんだ。あんたがいれば、どんな化け物が来てもこの家は安全だな」
ルミナは弓を背中にしまい、安堵の表情を浮かべて空を見上げる。
東の空が薄っすらと白み始め、長い夜が終わりを告げようとしている。
戦闘の緊張が解けると同時に、4人のお腹から申し合わせたように可愛らしい音が鳴り響く。
私たちは顔を見合わせ、声を出して笑い合った。
私はかまどの火を再び起こし、小川の水を張った鍋に、森で採集しておいた香りの良い野草をいくつか放り込む。
お湯が沸騰し、野草から抽出された緑がかったエキスが鍋の中に広がっていく。
爽やかな香りが広場を包み込み、戦闘の疲労で強張っていた筋肉を内側から解きほぐしてくれる。
木製のカップに温かい野草茶を注ぎ、平らな石の上で軽く炙った干し肉と共に3人に配る。
拠点の入り口の段差に腰掛け、私たちは昇り始めた朝日を見つめながら、ゆっくりとカップを口に運ぶ。
喉を通る温かな液体が、冷えた体を優しく温め、確かな生の実感を与えてくれる。
無人島でのサバイバルは決して容易ではないが、この温かい食事と頼れる仲間がいれば、どんな困難も乗り越えていけると確信していた。
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