過労死建築士の無人島サバイバル!創造魔法と極上キャンプ飯でエルフも獣人も胃袋ごとオトして最強の楽園を造ります
藤宮かすみ
第1話「波音と黄金色の焼き魚」
じりじりと肌を焦がすような強烈な日差しと、鼻腔をくすぐる強い潮の香りが、微睡みの底から私を引き上げる。
熱を帯びた砂の感触が背中全体に伝わり、波の規則的なリズムが鼓膜を小さく揺らす。
重い瞼を押し上げると、視界の端から端まで広がる抜けるような青空に、薄く引き伸ばされた雲がゆっくりと流れていく。
上半身を起こして周囲を見渡せば、どこまでも続くエメラルドグリーンの海と、背後にそびえ立つ深い緑のジャングルが目に飛び込んでくる。
『ここはどこだ』
私の最後の記憶は、深夜の設計事務所で図面と睨み合っていた時のものだった。
納期に追われ、三日三晩まともな睡眠をとらずにモニターに向かっていた最中、心臓を直接わしづかみにされたような激痛が走り、そのまま意識を手放した。
過労死という言葉が脳裏をよぎるが、今の私の体には痛みも疲労もなく、むしろ奇妙なほどに活力が満ちている。
立ち上がり、自分の両手を見つめる。
建築士として酷使してきた指先は綺麗になっており、着ている服も見慣れたスーツではなく、動きやすい麻のような素材のゆったりとした衣服に変わっている。
夢ではないことを確かめるため、足元の白い砂を強く握りしめると、ざらりとした確かな感触が手のひらに残る。
『異世界転移、というやつだろうか』
状況を飲み込もうと息を吐き出した瞬間、頭の奥底に異質な情報が流れ込んでくる。
それは言葉ではなく、本能に近い直感として、自分が魔法という超常の力を扱えるようになっているという確信である。
頭の中に明確な設計図を描き、それを具現化する力、すなわち創造魔法。
建築士としての知識と経験が、この未知の力と奇妙に結びついているのを感じる。
試しに、目の前の空間に手頃な大きさのナイフを思い描く。
刃の材質は炭素鋼、グリップは滑りにくい木材、重心は刃の根元に設定し、図面を引くように詳細な構造を脳内で組み上げる。
右手のひらの上に淡い光の粒子が集まり始め、ナイフの輪郭を形成していく。
「いけるか」
思わず声が漏れるが、次の瞬間、光の粒子は形を保てずに霧散し、同時に全身の血の気が引くような強烈なめまいが私を襲う。
膝から崩れ落ち、砂浜に両手をついて荒い息を吐く。
胃袋が内側からえぐられるような、経験したことのない飢餓感が全身を駆け巡る。
創造魔法の発動には、自らの魔力、つまり生命力そのものを極限まで消費するのだと直感する。
質の高い食事を摂り、魔力を回復させない限り、この力は到底扱いきれない。
よろめく足に鞭を打ち、私は食料を求めて海岸線を歩き始める。
干潮の時間を迎えているのか、岩場には海水が取り残された潮だまりがいくつもできている。
透き通った水の中を覗き込むと、銀色に光る丸々とした魚が岩の隙間に逃げ込むのが見える。
近くに落ちていた先端の鋭い流木を拾い上げ、水面の反射に目を細めながら、魚の動きを予測して一気に突き降ろす。
手首に確かな抵抗が伝わり、流木の先で暴れる魚を砂浜へと放り投げる。
跳ね回る魚を石で叩いて絶命させ、鋭利な貝殻を見つけて手早く内臓とエラを取り除く。
血抜きを済ませた魚を海水で洗い、天然の塩味を表面にまとわせる。
次は火の確保である。
乾燥した流木と枯れ葉を集めて小さな山を作り、その中心に向けて右手を突き出す。
残された僅かな魔力を振り絞り、ナイフのような複雑な構造ではなく、単なる熱エネルギーの塊を想像する。
指先から小さな火花が飛び散り、枯れ葉に着火すると、細い煙が立ち上り始める。
息を吹きかけて火を育て、安定した炎の揺らめきを作り出す。
太い枝に魚を突き刺し、炎の横に立てかけてじっくりと焼き始める。
時間が経つにつれて、魚の表面の水分が飛び、皮が黄金色に色づいていく。
内部の脂が熱されて皮の表面に染み出し、炎に落ちて弾けるたびに、香ばしい匂いが周囲の空気を満たす。
ひもじさを主張する胃の腑が小さく痙攣し、口内には絶え間なく唾液があふれてくる。
焼き上がった魚を手に取り、熱さに顔をしかめながらも、かぶりつく。
パリッと音を立てて皮が裂け、中からふっくらとした純白の身が湯気と共に姿を現す。
海水の塩分が魚の強烈な旨味を引き出し、噛み締めるたびに濃厚な脂が舌の上で溶けていく。
飲み込んだ熱い塊が胃に落ちた瞬間、全身の細胞が歓喜の声を上げるような感覚に包まれる。
失われていた体温が急速に戻り、指の先まで熱い血が巡っていくのを感じる。
頭を覆っていた霧が晴れ、先ほどまでのめまいが嘘のように消え去る。
これが、美味しい食事による魔力の回復。
魚を骨までしゃぶり尽くし、完全に活力を取り戻した私は、再び右手を前に出す。
『サバイバルナイフ。刃渡り15センチ。フルタング構造』
先ほどよりも鮮明で緻密な設計図を脳内に展開する。
充実した魔力が指先から流れ出し、まばゆい光の束となって空間を歪める。
光が収束した直後、私の手の中には、寸分の狂いもなく設計通りのサバイバルナイフが握られていた。
金属の冷たい質感と、掌に吸い付くようなグリップの感触が、これから始まる未知の生活への希望を確かなものにしてくれる。
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