目の話

静谷

「目」

 西日が差し込むレストランの片隅。

 夕暮れの光を受けて、彼の瞳の色がいつもよりはっきりと映し出されている。


 私は彼の目を見て言った。

「綺麗だね、目の色」


 日本人の標準的な眼の色より二段は明るい茶色の虹彩、瞳孔へと向かう黒の紋理もんりが、綺麗に筋を通して見える。


 彼は目を細め、優しく微笑んだ。

「そう?ありがとう」


 私はふと思い出したことがあったので、少し瞼を開いて人差し指で自分の瞳を指さした。


「私の目、見て?」


 そう言われて、彼はこちらを見つめ返す。

 蕩けたような、甘い視線は私の「目」には向けられていない気がした。


 ――私の目……ちゃんと見てるかな……。

 見つめ合って数秒、彼が瞬きをしたタイミングで問いかける。


「……気づいた?」


「……んー?ごめん、分かんない」


 彼はようやく返事することを思い出したようで、優しい声で誤魔化すように言った。

 やっぱり、私の目は見ていない。


「もう!ちゃんと見てよ〜!」


 拗ねたように言うと、

 彼は今度こそじっくりと私の瞳を覗き込んできた。自分で言っておきながら少し後悔するくらい、深く、真っ直ぐに。


「目の色……、違うね」


 そう、私の眼は左右で色が違うのだ。

「正解!」


「右が薄茶で、左は瞳が見えないくらい黒いね」


 ――

「……私の右目の色、あずはと一緒かも」

 薄茶、という言葉を聞いてふと気が付き、

 冗談ぽく言ってみた。


 彼が二回、素早く瞬きをした。

 そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 大きな手が私の頬を優しく撫で、これ以上ないくらいじっくりと視線が交わった。


 やがて、彼はそっとつぶやいた。


「ほんとだ」


 その表情からこぼれ落ちたのは、いつもの声より、数倍は甘く優しいトーンで……。


 私は少し恥ずかしくて、そっと視線を逸らした。

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目の話 静谷 @MiRuno335

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