第7章 暗号試行



壁時計の秒針が頭の中で爆音のように響く。

――チク、タク、チク、タク。


灰色のログ欄に刻まれた文字。

――Timestamp mismatch (+31,536,000 seconds)。


一年先。

届いたデータは、私のカレンダーより一年未来――2027年5月から。


「狂ってる……本当に狂ってる」

こめかみを押さえ、脈打つ痛みに耐える。


ブラウザを開き、技術フォーラムを漁る。

ネットワーク時刻同期の失敗。

記事にはクロックジェネレータの故障やタイムゾーン設定の誤りが並ぶ。

そう、設定ミス。

昨日のメンテで内部時計を進めすぎたのだろう。


だが、もし単なるシステムの誤りなら、なぜNaoyaの言葉は記憶を探るように響く?


再びゲーム画面へ。

彼は武器を下ろし、静かに立っている。

静かすぎる。


冷たい汗に濡れた掌をキーボードに置く。

確かめなければ。

数字ではなく、彼自身の意識を。


Rei:

「君、いつも何時にログインする?」


Enter。

Pingは45ms。安定。


一秒、三秒、五秒。

応答は遅れる。

真空に閉じ込められた言葉が解放されるように。


Naoya:

「決まってない」


短い返事。

すぐ次を打つ。


Rei:

「仕事?」


画面が一瞬揺れ、細いノイズが走る。

そして一語。


Naoya:

「うん」


息が乱れる。

次は核心。

現実の詳細。


Rei:

「どんな仕事?」


送信。

沈黙が重く垂れ込める。

部屋の音はファンの唸りだけ。


二分近く待たされる。

切断されたかと思った瞬間、文字が吐き出される。


Naoya:

「絵」


椅子で跳ねる。

絵?

私は今、ペンを握り、原稿を描いている。

どうして彼が知っている?


震える指で打つ。


Rei:

「イラスト?」


返事はまた飛び越えてくる。


Naoya:

「似てる」


私は机に手を落とす。

未来のデータの裂け目から覗き込む視線。

幽霊ではない。

超常でもない。

ただの信号。

時間を越えて流れ込むデジタルの声。

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