第8話 死と生

「いらっしゃいいらっしゃい! 新鮮な野菜が入荷したよ~」


 野菜を出店に並べると、クレアさんが声を上げ始める。次々と野菜が売れていく。


「箒が欲しいんだけど」


「あ、それならあっちの端のお店で売ってるよ」


「ありがとう。あと花は」


 クレアさんは野菜を売りながら商品の案内までやっていく。

 他のお店の人からも声をかけられて頼られてる。やっぱり凄い人なんだな。


「コケコケ」


「ワン!」


 メンマがグレイダーの背中に乗って頭を突いてる。彼は気にせずに尻尾を振ってるな。優しくて強い犬、カッコいいな。


「ワンワン!」


「ん? どうしたの?」


 メンマを背中に乗せたまま駆け寄ってくるグレイダー。思いっきり尻尾を振って何かを要求してくる。


「え……。強くなりたい?」


「ワン! ハッハッハッハ!」


 クロウがリコの名前を言ってきた時のように頭に言葉が流れてくる。まだ繋がっていないはずなのに。

 あ、メンマが教えていたのか? それで怒らずに尻尾を振って。エディさんの子だからな~。クロウとリコは事後にわかったことだし。


「ワン!」


「わっ!? わかったよ。でも、君はエディさんの子だから。それは忘れないでねグレイダー」


 彼が声を上げる。それに驚きながらも答えると白い線が彼と僕を結ぶ。ほわっと温かい気持ちが流れ込んでくる。


「もう仲良くなったんですね」


「あ、エディさん。グレイダーが強くなりたいって言うので」


 エディさんが嬉しそうに話しかけてくる。調教スキルを使ったことを伝えると、グレイダーを撫でる。

 気持ちよさそうに撫でられているグレイダー。エディさんも動物を大事にする人なのが分かる。


「アルフ。そろそろ帰りましょ」


「お母さん。は~い」


 配達を終えた僕らは帰路に立つ。バナーさんにも知らせないといけないからね。


「売り上げはこちらで保管しておきます。明日配達の時に渡しますね」


「はい。明日は主人が来ると思うので」


「わかりました」


 エディさんの言葉にお母さんが答える。そうか、毎日お母さんが一緒というわけにはいかないんだな。

 お父さんも兵士として村を守っているから毎日僕に付き合うわけにも行かないだろうな~。何か対策を練っておかないといけないかも。


「ワンワン!」


「グレイダー? お見送りしてくれるの?」


 僕とお母さんはネオとローにそれぞれ乗って城門へと歩き出す。するとグレイダーが横を歩いてくれる。

 動物達の大行進と言った様相にすれ違う人たちが笑顔になっていく。


「ニャ~」


「ワンワン!」


 グレイダーとノラコが何か話をしてる。グレイダーの視線は警備兵のようにキョロキョロしてる。何か嫌な予感でもしてるのかな?


「お気をつけて」


「ありがとう」


 城門をくぐる時に兵士さんがお母さんと僕に声をかけてくれる。動物を沢山連れている人というだけで、みんなが心配してくれる。

 お母さんは美人だからっていうこともあるかもしれないな。みんなデレデレな表情になってる。


「ヒヒ~ン!」


「あ、そろそろ速度上げるよ。みんな二人に乗って」


 ネオが声を上げる。『速度を上げる』と声が聞こえてくる。みんながネオとローに乗り込むと、グレイダーが見送ってくれる。


「ありがとうグレイダー。エディさんによろしくね」


「ワン!」


 僕の言葉に尻尾をブンブン振るグレイダー。町へと帰っていく彼を見て振り返る。

 速度を上げるネオ。ローも元気にそれについて行く。ネオの突っ切る風の道をローが悠々と走る。ネオの馬力は更に強くなっているように感じる。


「あら? 雨?」


 お母さんが声を上げる。すると僕の鼻にも雨が落ちてくる。激しい水草の香りが漂ってくる。


「来たな……」


「止まりやがれ!」


「キャ!?」


 雨雲を見上げていると声が上がる。

 街道をまたぐように馬車が置かれている。盗賊? そう思っていると見知った坊主頭の男がニヤニヤして斧を見せてきた。


「子供は奴隷商に。動物たちは肉だ。女はもちろん俺達の慰み者。へっへっへ」


 坊主頭の男がそう言って舌なめずりをする。激しくなる雨、僕は息をのんだ。


「シャ~!」


「ブルブルブル!」


 ノラコとネオが威嚇をする。動物となめてかかってくる男達。だが、肉にしようとしてくる彼らは武器を容赦なく使ってくる。


「コケ~!」


「うわ!? いて! いててて! 血が!」


 メンマの激しい脚が一人の腕を血塗れにしていく。裂傷が凄いことになってるな。

 

「シャ~!」


「ヒヒ~ン!」


 ノラコとネオも参戦。大きなネオは体当たりだけで一人を倒す。ノラコに顔をひっかかれる男達は目が見えなくなってく。

 

「この! 女とガキを狙え! こいつら普通の動物じゃねえ!」


 坊主頭の声で僕らへと武器を向けてくる。お母さんはそれを鼻で笑う。


「普通じゃないってこういうことかしら?」


「え……。この女!? 魔法使いかよ!? 聞いてねえぞ!」


 お母さんは両手に水の球を作り出す。雨の降っている領域で、水の魔法使いに喧嘩を売った。

 彼らは愚か者だったんだ。そして、僕は雷魔法を使える。

 クロウとリコとグレイダーの白い線を自分に集中させる。

 

「このガキは雷魔法を使ってるぞ!?」


 バチバチバチと派手に音を立てると雨音を消す程の怒号へと変わる。男達は顔を青ざめさせる。


「う、狼狽えるんじゃねえ。こいつらを仕留めたら金貨だ。遊んで暮らせる。俺に続け!」


「わっ!?」


 坊主頭の男が自分を勇気づけるように声を上げる。そして、突然僕に襲い掛かってくる。

 僕は咄嗟に雷魔法をガードに使う。雨に濡れていた彼はバチバチと音を立てて焦げ臭く倒れる。


「ひ、ひぃ!? 殺された!?」


「逃げろ!」


 坊主頭の男が倒れると蜘蛛の子を散らすように逃げていく男達。僕は倒れる男を見つめて唖然としてしまう。手が震え、視界が揺らぐ。これが人の命を取るということ?


「あなたは悪くないわ。この人が自分で招いたのよ」


 お母さんが慰めてくれる。僕は初めて人を殺してしまった……。僕の魔法は人を殺せる力を持ってるんだ。怖いな……。


「凄いけど……。あまり使いたくないな。別の何かに使えればいいんだけど。……あ!?」


 そうだ! 電気と言ったらあれがあるじゃないか。やってみよう。

 僕は坊主頭の男を仰向けにする。すると雨が止んで日差しが僕を照らす。まるで祝福してくれているような日差し。


「心臓が止まってる」


 彼の胸に耳を当てる。確かに心臓が止まってる。僕は両手を彼の胸と脇腹にそれぞれ置く。そう、AEDだ。

 社会人になると消防から指導が入るAED。電気は危ないものだ。だけど、人を助ける力も持ってる。

 もし失敗したら、本当にこの人は死ぬ。失敗できない。

 

「はっ! はっ!」


 電撃を食らわせる。両手から放たれる電撃が心臓で激しく合流する。効いてる、感じるぞ。


「がはっ!? はぁはぁ……な、なんだ?」


「アルフ……」


 坊主頭の男が目を覚ます。お母さんはそれを見て感動して涙してる。


「あなたは神様なの? 人を生き返らせるなんて」


「お母さん……。神様じゃないよ」


 抱きしめてくれるお母さん。ずぶ濡れの僕らをネオ達が包んでくれる。坊主頭の男は何が起こったのかわかっていないみたいだ。

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