第5話 進む異世界チート
「ははは、早い早い! ネオにも負けてないよ!」
「ヒンヒンヒン!」
ルートからローを返してもらって、僕らは帰路に立つ。僕はローにまたがってネオはお父さんを乗せてついてくる。
ネオは本気で走らずにローを立ててくれてる。それでもロバとは思えないほどの速度。風切り音が心地いい。
「ネオはついて行ってあげなさい。アルフ。バナーさんへは一人で行けるだろ?」
「うん! 大丈夫だよ。二人もいるしね」
「「ヒン!」」
家の前まで帰ってくるとお父さんは先に家に帰っていく。ローとネオが任せろと答える。
僕はこの先の農場へ。バナーさんに手紙を届けないとね。あと、野菜の返却も。
「バナーさん! バナーさ~ん?」
農場にたどり着いて声を上げる。外からじゃ見えないから建屋の中かな?
鳥小屋と畑を横切って建屋に入る。すると強烈な血の匂いが漂ってくる。
「な、なに!?」
初めて嗅ぐ匂いに嫌悪感を感じていると物音がしてくる。ガサガサという音。
その音の元へ二人と一緒に近づく。
「ほら、もうすぐだぞクロウ」
バナーさんの声だ。隅の囲いの中で牛と話してる? バナーさんは動物に名前を付けてあげてるんだ。ルートとは違う。
「バナーさん」
「ん? おお! 気づかなかった。手紙届けてくれたのか?」
「あ、はい。返事はこれです。えっと牛の出産ですか?」
「ありがとう。ああ、クロウっていうんだ」
長い脚がお尻から突き出てきてる牛。それを一生懸命出そうとしてる姿。こっちが力んでしまう程の状況。なんだか涙が出てくる。
「モ~! モ~!」
「頑張れクロウ! もう少しだ!」
「頑張れ!」
力んで声をあげるクロウにバナーさんと一緒に応援する。力む力がどんどん強くなる。
「ヒンヒン!」
「ヒヒ~ン!」
ローとネオも声を上げて応援する。すると不思議なことが起こった。
暗がりの建屋に3本の白い線が現れた。その線は僕にしか見えていないみたいで、クロウへと伸びて行ってる。
白い線の元は僕とローとネオ……もしかして調教スキルの効果?
「モォ~~~」
白い線に目を奪われていると、ひときわ大きな声を上げるクロウ。そして、すぐに子牛が無事に出てくる。
「ははは、アルフたちの応援が聞いたか? 普通は一晩かかるんだがな」
「はは……。よかったです」
普通は一晩……。やっぱり、僕の調教スキルの効果なのかな? それもローとネオも効果を底上げしている可能性がある。いや、これは間違いなく僕の力だ。
「よ~し。よく頑張ったな~。いいメス牛だ。そうだ! 名前はアルフが決めてくれ。これも何かの縁だろう」
「え!? そんな大事なこといいんですか?」
「ああ。ローを大事にしてくれてるみたいだしな。この子も気に入ってくれるだろう」
バナーさんは嬉しそうに提案してくる。急に言われても、そう思ったけど。クロウが曇りのない瞳を向けてくる。
その視線から言葉が勝手に出てくる。
「リコ。リコがいいみたいです」
「リコか。いい名前だ。お利口な子になりそうだな」
「モ~!」
クロウの声は確かにリコと言ってくる。バナーさんも喜んでくれて名前を呼ぶとクロウも一緒に声を上げた。
「リコか。懐かしいな」
「え?」
「クロウのお母さんの名前だ。お前はお利口だなって言ってよくなでていた牛だよ。これも運命だな。またこの農場に来てくれたんだ」
子牛を布で拭きながら呟くバナーさん。
そうか……クロウはお母さんの名前を付けたくて言葉を送ってきてくれたんだ。僕が居なかったら伝わらなかった名前。なんだか誇らしい。
「ありがとうアルフ。ランドにもお礼を言っておいてくれ」
「はい! おやすみなさい!」
バナーさんを少し手伝って別れの時。お礼を言ってくる彼に手を振って家に戻る。
来る時と違ってゆっくりと歩く。ローもネオも疲れなく横を歩く。
「ヒン!」
「ん? どうしたのロー?」
農場から少し戻るとローが声を上げる。彼が示す場所に行くと鶏が一羽倒れてる。羽が毟られてる? 死んじゃってるのかな?
「コ~! ココ!」
「あ。生きてる! よかった。バナーさんの所の鶏かな?」
鶏を保護してバナーさんの元へと戻る。
「バナーさん、鶏が怪我して外に居ましたよ!」
早速声をかけて鶏を見せる。すると彼は首を傾げた。
「うちの鶏は全部いるぞ?」
「ええ!? じゃあ、この子は野良ってことですか?」
「たぶんな。まあなんだ。これも縁だろう。アルフが飼ってやれ。餌はうちが売ってやるよ。ほれ最初はタダでやる」
バナーさんはそう言って乾燥トウモロコシの入った革袋を手渡してくる。
簡単に動物を飼うって言えるのはバナーさんが農場を経営しているからで。僕の家はネオとローだけでも満員だよ。
「コケ~」
「といっても見捨てるのは忍びないよな~。まあ、何とかなるかな……。お母さんに怒られそうだ」
うなされている鶏を抱きかかえてネオに咥えさせる。流石に色々あり過ぎて疲れてしまった。ローに乗せてもらってゆっくり帰ろう。
「名前はそうだな~。雌鶏だからメンマにしようかな。よろしくねメンマ」
「コケ~……」
知ってか知らずかメンマは名前を聞いて声を上げる。雌鶏で野良をやっていたなんて凄い鳥だ。
しかし、川に流されて藁を掴んでから急に異世界チートが始まりだしたな~。
窮地に陥って覚醒するみたいな流れだったのか? まあ、チートは大歓迎なので楽しもう。
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