第2話 祝勝会

祝勝会は、ホテルのパーティー会場で盛大に開かれた。

最後、他チームに抜かれたとはいえ、70チームあまりが参加する世界大会で2位だ。それは誇るべき結果である。


俺は、派手に吹き出したシャンパンを華麗に避け、歓喜する輪から外れて、端の方で一人、窓の外を眺めながらビールを飲んでいた。


視線の先では、皆に称えられ、デカい顔をしてふんぞり返っている匠海。


ライダーとしての匠海の功績は大きい。

それは解っている。


別に、結果に納得がいってないわけじゃない。


「颯、お疲れ。」

「お疲れ、匠海。」


グラスを片手に、アルコールで既に顔を赤くした匠海は、隣で肩を組んでくる。


「もっとこう、なんか無いのかよ?」

「……おめでとう、いい走りだった。」

「……思ってなさそうだな。」

「自覚があるから、来たのかと。」


さっきまで匠海は偉そうにふんぞり返って、レースクイーンの女の子たちにチヤホヤされて、今日の夜の相手を探しているのだろうと思っていた。

それなのに、俺の隣という辛気臭いところに来るのは、匠海らしくない。


ぱっと俺の肩を離して、窓辺に背中を預けた。


「……マシンは完璧だった。颯の調整はいつだって完璧だ。」


すとん、と急に落ちる声のトーン。

喧騒のなかでも、よく通る声だ。


「そりゃどーも。」

「ピットインのタイミングも、ピット作業も、何もかも完璧で……。」


匠海は片手の拳を握って震わせる。

さっきまで、ふんぞり返って勝利の美酒を味わっていた男の反応ではない。


――あれもまた、虚勢か。


「……そう思うなら、来シーズンに向けてもっと練習しろよ。」

「……厳しいよな、颯は。」

「甘やかされたいなら、あっちの綺麗なお姉さんたちにしてもらってくれ。」

「それはそれで、甘やかされてくるに決まってるだろ。」

「ったく、煩悩の塊め……。」

「良いだろ?生きてるから出来るんだよ。モテる内は、謳歌させてもらうさ。」


生きてるから出来る。

その言葉の重みを、俺は知っているつもりだ。


3年ほど前、匠海はレース中にクラッシュして大怪我を負った。

モータースポーツに事故は付き物だが、マシンが大破するほどの事故で生きていた匠海は、運が良かったとしか言いようがない。


あの頃の匠海は、まだ若くて、怖いもの知らずで、どこにでも突っ込むような勢いのある男だった。


あの事故が、匠海の技術を上げるきっかけであり、無鉄砲さを失わせたきっかけだ。


「匠海が来年、優勝したら――」

「……優勝、したら?」

「……俺も、甘やかしてやるよ。」

「気持ち悪ぃから、いらねぇや。」


即答かよ。失礼なやつだ。


「じゃあ、シャンパンファイトで、思いっきり酒ぶっかけてやるから、覚悟しとけ。」

「颯サマが盛り上がってるとこ見れるなら、それは一興かもな。」

「だろ?それこそ……奇跡だ。」


ふっと口角が上がる。

それは、匠海が笑っていたから、釣られただけ。


あんな事故を経験して、それでも走っている匠海の強さを支えるのは、メカニックチーフの仕事だからな。


「次のシーズンも、いいマシンを頼む。」

「……あぁ、任せておけ。」


背筋を伸ばして、しっかりとした足取りで、匠海はまた、喧騒の中に戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る