第3話「利用する人間」
【本当の理由】
【面接官が、あなたを利用しようとしている】
「……は?」
思わず声が漏れた。
利用する?
何を?
意味が分からない。
俺はメールを何度も見返した。
会社名は聞いたことがある中小企業だった。
営業職。
給料も悪くない。
勤務地も近い。
条件だけ見れば、今の俺なら飛びついていた。
でも今は違う。
画面の下に浮かぶ文字が、妙に頭から離れない。
「利用って何だよ……」
俺は少し考えて、面接の日程を見る。
明後日の午後二時。
……行くか。
どうせなら試したい。
この意味不明な能力が、本物なのか。
二日後。
面接会場のビル前。
俺はスーツのネクタイを直していた。
緊張している。
でもそれ以上に、気持ち悪さがあった。
もし本当に見えているものが正しいなら。
俺は今から、「利用しようとしている人間」に会うことになる。
受付を済ませ、会議室へ案内された。
中にいたのは、四十代くらいの男だった。
細身で、笑顔がやたらと柔らかい。
「どうぞどうぞ、座ってください」
「よろしくお願いします」
「いやー、履歴書見ましたよ」
男はニコニコしていた。
「転職活動、結構苦労されてますね?」
「……まあ、少し」
「大変ですよねぇ」
優しい声だった。
普通なら安心する。
でも今は違う。
俺の頭の中では、あの文字がずっと浮かんでいた。
【利用しようとしている】
男が履歴書をめくる。
「前職ではデータ管理や分析もやってたんですね」
「はい」
「へぇ……」
その瞬間。
男の目が、一瞬だけ変わった。
ほんの一瞬。
笑っているのに、何かを計算している顔。
気のせいかもしれない。
でも違和感があった。
「実はですね」
男は身を乗り出した。
「うちは今、新規プロジェクトがあって」
「はい」
「もし入社したら、かなり重要な仕事を任せたいと思ってます」
重要な仕事。
普通なら嬉しい言葉。
だけど――。
「その仕事って、具体的には?」
俺が聞くと、男は一瞬だけ止まった。
「あー……まあ詳しくは入社後ですね」
「……」
「若い人にはチャンスを与えたいんですよ」
笑顔。
笑顔なのに。
なんだろう。
ものすごく嫌な感じがする。
面接が終わり、エレベーターを待っていた時だった。
会議室のドアが完全に閉まっていなかった。
中から声が聞こえた。
「どうでした?」
別の社員の声。
すると、あの面接官が笑った。
「あいつ使えそうだな」
俺の足が止まる。
「前職で分析やってたらしいし」
「ちょうど押し付ける奴欲しかったんですよね」
「安く働かせればいいだろ」
頭が真っ白になった。
その時だった。
スマホが震えた。
画面には文字が浮かんだ。
【能力発動条件更新】
【対象:メールのみ → 人間にも適用開始】
「……え?」
ゆっくり顔を上げる。
エレベーターから降りてきた女性社員と目が合った。
そして。
その頭の上に、文字が浮かんだ。
【退職予定:三日後】
俺は完全に固まった。
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