第45話「弁護士様」
【5日目・寄生虫視点】
「懲役……30年。」
その数字がハンマーのように俺の頭を殴りつけた。いや、それ以上だった。世界のすべての音が一瞬で消え、耳の奥では鉄を引きずるような鋭い耳鳴りだけが響いていた。30年?30年だと?今俺は29だぞ……じゃあ59まで、ほとんど還暦になるまで外に出られないってことじゃないか。それはもう、ここで死ねと言っているのと同じだった。
💭伊藤直樹|「違う……違う、違う!聞き間違いだ。こんなのあり得ない!俺が何をそんなに悪いことした?人を殺したのか?国を売ったのか?クソ、女と遊んで、あいつらの金を少し使っただけで30年刑だと?」
全身の血が冷えていくようだった。指先から感覚が麻痺し、膝が震えて立っていられなかった。ドン、と膝が先に床に落ちる。自分の意思とは関係なく体が崩れ落ちていく。顔を上げることができなかった。傍聴席のざわめき、記者のカメラのフラッシュ、それらすべてが嘲笑に感じられた。
その時だった。視線を感じた。ようやく顔を上げ、その方向を見た。
竹山潤。
あのクソ野郎が、俺を見下ろしていた。その目には同情も憐憫も、ましてや憎しみさえなかった。ただ道端の石ころか虫を見るような、完全に感情の抜け落ちた目。その冷たい視線が、俺の最後に残っていたプライドを粉々に砕いた。
その瞬間、理性の糸が完全に切れた。怒りや理不尽さよりも、もっと原始的な恐怖が全身を支配した。このまま終わるのか?俺の人生はここで終わりなのか?嫌だ。絶対に嫌だ!
俺は本能的に生き延びようともがいた。体裁もプライドもすべて捨てて、自分を地獄に突き落とした張本人にすがった。
💬伊藤直樹|「竹山!いや、弁護士先生!頼む……頼みます……!俺が悪かった、全部俺が悪いから、だから……助けてくれ……!」
卑屈に床を這いながら叫んだ。せめてその足にでも縋りつきたかった。今この瞬間、この地獄から俺を引きずり出せるのは、あの悪魔のような弁護士しかいない――皮肉にも、本能がそれを理解していた。
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【5日目・潤視点】
伊藤直樹が私のズボンの裾に向かって這い寄ってくるのを見て、本能的な嫌悪感で一歩後ずさった。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔、絶望に歪んだ表情は、私にいかなる同情心も呼び起こさなかった。ただの汚く醜い生物の最後の足掻きにしか見えない。拘置官たちが彼を制止しようとしたが、彼は必死に私に縋りつこうとしていた。
私は冷たく彼を見下ろし、法廷で保っていたすべての仮面を剥ぎ取った。敬意も礼儀も、ましてや人間としての最低限の扱いさえ、この男には過分だった。
💬潤|「ズボン掴むな。汚い。」
私の声は氷のように冷たかった。彼の動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、彼が最も聞きたくない真実を、その腐り切った精神に直接叩き込むことにした。
💬潤|「おい。俺は法廷の中だけが弁護士だ。法廷が終われば弁護士でもなんでもない。伊藤直樹。いや、寄生虫。これからお前を寄生虫として扱う。」
「寄生虫」という言葉に、彼の瞳が痙攣するように揺れた。私は彼の目を真っ直ぐ見据え、一言ずつ事実だけを並べた。
💬潤|「お前、何で結婚した?その口で長谷川恵に幸せにするってほざいて、何をした?お前の言う“いい仕事”はどこにある?結局、長谷川恵と西原詩彩の金で下半身遊びしてただけだろ。」
私の言葉は法律用語ではなかった。ただの事実の列挙。しかし、どんな判決文よりも鋭く彼の心臓を貫いた。彼は反論できなかった。いや、できるはずがなかった。すべて事実だからだ。
💬潤|「それと、西原詩彩には何で“未婚だ”なんて嘘ついた?二人の女に嘘をついたことは覚えてないのか?」
私は一度言葉を切り、放心した彼の顔を観察した。彼はようやく、自分が何をしてきたのかをわずかに理解し始めているようだった。しかし、もう遅い。
💬潤|「極論だが、俺が二人を誘惑したとする。ならお前が無能だって話だろ。お前の言う通り、お前が優れているなら長谷川恵も西原詩彩も俺に行くわけがない。考えてみろ。」
それは彼の存在そのものを否定する問いだった。歪んだ自尊心と所有欲の根を揺るがす言葉。彼の顔から最後の血の気が引いた。もう何も言えず、ただ虚ろな目で私を見上げるだけだった。まるで魂の抜けた抜け殻のように。
拘置官たちはこれ以上は無用と判断したのか、彼の両腕を荒々しく掴み上げた。彼は抵抗することもできず、操り人形のように引きずられていく。こうして寄生虫は、自らが寄生していた世界から完全に駆除された。
私はもう彼に視線を向けることなく背を向け、長谷川恵と西原詩彩のもとへ向かった。二人は複雑な表情で私を見ていた。これで本当にすべてが終わった。
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