第2話「選択」

【過去・恵視点】


どくん、と心が沈み込むような感覚だった。彼の告白を断る言葉を口にした瞬間から、私はまともに彼の顔を見ることができなかった。長い時間を一緒に過ごしてきた幼なじみ。いつだって私のそばで支えてくれた竹山くん。まさか彼が、そんな気持ちで私を見ていたなんて――夢にも思わなかった。


💭恵|『どうしよう……言いすぎちゃったかな。でも……嘘はつけないよね。』


私の心は、もう直樹先輩へ向いていた。大人っぽくて、私を引っ張ってくれるあの人との未来を、やっと描き始めたばかりだった。そんな時に受けた竹山くんの告白は、穏やかだった私の心に突然投げ込まれた石みたいに、大きな波紋を広げた。彼は無理に笑いながら、「大丈夫だから、気にしなくていい」と言った。その時の私は、いっそ怒ってくれたり、責めてくれたりしたほうが楽だったかもしれない。でも彼はそうしなかった。


むしろ、私の「私たちは友達だよ」という言葉をそのまま受け止めて、先に背を向けた。


その背中が――いつもよりずっと小さく、ひどく寂しそうに見えた。


何か声をかけなきゃいけない気がした。でも、どんな言葉も慰めにはならないと分かっていたから、唇だけがわずかに動いて、結局何も言えなかった。引き止めるのは、もっと残酷だ。私はただ、遠ざかっていく彼の背中を、まるで初めて見る人みたいに見つめることしかできなかった。風が吹いて、髪が揺れた。私はそれを耳にかけながら、指先が少し震えているのに気づいた。


申し訳なさ。戸惑い。そしてほんの少しの安堵。いくつもの感情が入り混じって、胸の奥を押しつぶしていく。


私たち、本当に……今までみたいに、何もなかったみたいに友達でいられるのかな。彼の姿が完全に見えなくなってから、私はようやく長く息を吐いた。胸の奥が少しだけ冷たく痛んだ。


――だけど、その次に浮かんだのは直樹先輩の顔だった。


自信に満ちた笑顔。私を呼ぶ優しい声。


そのときめきが、罪悪感をゆっくりとかき消していく。私はただ、目の前に現れた新しい恋にすべてを賭けたかった。竹山くんがずっと抱えていた想いの重さを、あの頃の私はちゃんと分かっていなかった。ただ誰かに想われることに慣れていて、自分の選択が誰かをどれほど深く傷つけるのか――そこまで考えられていなかった。竹山くんの背中が見えなくなっても、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。気まずく残った空気が頬をなでる。


「ごめんね」以外、何もしてあげられない自分が少し嫌だった。でも、その気持ちはすぐ別の感情に押し流された。


――直樹先輩への、ときめき。


💭恵|『……うん。これでよかったんだよね。竹山くんにとっても、そのほうがいい。中途半端に期待させるより、ちゃんと線を引いたほうが……友達でいるためにも……。』


自分にそう言い聞かせながら、私は歩き出した。頭の中は、直樹先輩のことでいっぱいだった。少し強引な話し方。ふと見せるいたずらっぽい笑顔。


そして何より――私を求めているのがはっきり伝わる、あの熱い視線。その全部が、恋を始めたばかりの私にはどうしようもなく魅力的だった。公園を抜けて、見慣れた道を歩きながら、私はポケットからスマホを取り出した。迷わず直樹先輩の番号を押す。


今すぐ、彼の声が聞きたかった。この複雑な気持ちを、新しいときめきで塗りつぶしてしまいたかった。数回のコール音のあと、聞き慣れた声が耳に届く。


📞直樹|「もしもし? あ、恵? この時間に珍しいじゃん。」


その声を聞いただけで、沈んでいた気持ちが少しだけ軽くなった気がした。


📞恵|「先輩……その、ただ……声が聞きたくて。」


受話器の向こうから、直樹先輩の楽しそうな笑い声が聞こえた。その笑い声はまるで魔法みたいに、心の中の罪悪感を洗い流してくれるようだった。


📞直樹|「なんだよ〜、もう俺に会いたくなった? 可愛いな。じゃああとで迎えに行こうか?」


自信に満ちたその言葉に、私は思わず笑ってしまう。竹山くんとの、あの重くてぎこちない空気とはまるで違う。軽くて、甘くて、心地いい。私はこの関係がくれる安心感と高揚感が好きだった。自分が選んだこの道は、きっと正しい。そう信じたかった。


📞恵|「……はい。嬉しいです。あとで会いましょう、先輩。」


通話を切って、私は小さく深呼吸した。竹山くんには申し訳ない。でも、仕方のないことだった。


恋は――動いていくものだから。


そうして私は、幼なじみの長年の想いを、新しい恋のための小さな出来事として片づけてしまった。その選択がどれほど重いものだったのか。あの時の私は、まだ何ひとつ知らないまま。


ただ目の前の甘さに酔っているだけだった。

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