第11話 再演すべし(1)

 神聖日本王国にて、モグラ教団の司祭であるツチミコが大衆に広く呼び掛ける。


<ツチミコ>

「皆様、突然ではありますが、耳を澄ませてみてください。すると聞こえるはずです、平和を望む賢明な人々の声が。どうか目を背けずに見開いてみてください。すると見えてくるはずです、助けを求める人々の姿が」


 ツチミコは悲しそうな顔をする。


<ツチミコ>

「……残念なことに神聖日本王国は望まれぬ戦争を始めてしまいました。大帝との対立も解消していない状況の中、私たちは何ができるでしょうか?」


 少し間をおいて、続ける。


<ツチミコ>

「助け合いだ。そう答える人もいるでしょう。きっと皆様は救いの手を差し延べたいと願っているはず。しかしながらその方法も、それをする余裕もない」


 ツチミコは両手を広げて声を強くする。


<ツチミコ>

「そこで私たちモグラ教団は提案します。それは簡単で素晴らしいことです。どうか皆様、ぜひ心穏やかに、反戦と平和を祈りましょう。祈りが広がれば、それは、お互いに手を取り合うことにつながるのです」


 懸命な呼びかけも大衆には広がらず、どれほど反戦運動を続けても戦争は止められず。

 ツチミコは力なく肩を落とす。


<ツチミコ>

「私の呼びかけも限界があるのですね」


<モグラ教団の信徒>

「正しい教えというものは、理解されるまでが大変なのです」


<ツチミコ>

「わかっています。ですが、なぜモグラ教団は戦争に対して無力なのでしょう?」


<モグラ教団の信徒>

「簡単なことです。すでに力を持つ権力者には、宗教など不要だからです。自分のやりたいことを邪魔する教義があるとなれば、どんなに教えが正しくとも、なおさら拒絶するでしょう」


<ツチミコ>

「そんなこと」


<モグラ教団の信徒>

「ですが、ご安心ください。世の中には変わり者も存在するでしょう。あらゆる手段を試してみてから失望すればよいのです」


<ツチミコ>

「試すといっても、神聖日本王国の役人は話を聞いてはくれず、挙句の果てに宗教弾圧へと動き出しているのですよ?」


<モグラ教団の信徒>

「ですから、変わり者を探すのです。たとえば国外になど」


<ツチミコ>

「国外とは……まさか、大帝!」


<モグラ教団の信徒>

「何を驚いておられるのですか。布教の前には、敵も野蛮もありません」





 日本海溝事変から始まった戦争の平和的な解決を求め、モグラ教団は大帝に接触を図る。

 その大帝では、最高権力者の判断を求めて、大帝軍の八島やしまが皇帝陛下を訪ねた。


<八島>

「失礼します。皇帝陛下」


<皇帝>

「……何だ?」


<八島>

「はい。実はモグラ教団なる神聖日本王国の宗教団体が、我が大帝政府に接触を求めているのです。歴史的にも宗教の扱いは難しいもの。いかがいたしましょう?」


<皇帝>

「……モグラ教団に光明なし」


<八島>

「は。その一言で十分でございます」


 大帝軍の参謀総長として、あらゆる戦略を模索する八島は静かに頷く。


<八島>

「つまり大帝はモグラ教団を受け入れるつもりはないと。そういうことか」





 一方、神聖日本王国。

 自尊心の強い国家元首である大紫おおむらさき大王が怒り狂っていた。


<大紫大王>

「全く、何を考えているのか理解に苦しむ!」


<神聖日本王国の役人>

「大紫様、どうか、落ち着きなさってください」


<大紫大王>

「愚かな軍部の暴走で、王命もないままにムー共和国との戦争に突入してしまったではないか。そもそもの原因が、こともあろうにジャレスを手土産にして大帝に媚びを売ろうとしていたというのだから虫唾が走る!」


<神聖日本王国の役人>

「ですから、落ち着いてください!」


<大紫大王>

「落ち着けるものか! あの厚顔無恥の国賊どもが! 軍人連中は神聖日本王国の神聖さを陥れるつもりか! 大帝は神聖日本王国を裏切った蛮族の集団なり。敵に他ならず!」


<神聖日本王国の役人>

「ですが陛下、軍部はすでに政府の意向とは別に大帝へと擦り寄っております。そこに共通の敵となるムーとの開戦とくれば、軍部の意向は完全に大帝との同盟関係です。ご理解ください」


<大紫大王>

「何を言うか、大帝との同盟など愚の骨頂だぞ。ムーはさておき、地下九州を支配している大帝こそ神聖日本王国にとって真の敵なり! 軍部が大帝との戦争に尻込みしているならば、大帝に攻め入る正当性を喧伝して尻を叩け!」


 なだめることは不可能だと悟り、神聖日本王国の役人は渋々と言った様子でうなずく。


<神聖日本王国の役人>

「……はい」


<大紫大王>

「こうなった以上、神聖日本王国はムーとも大帝とも戦う修羅の道を進むのだ!」





 神聖日本王国軍の上層部では王命に対する異論も出たが、大王には逆らわず。


<神聖日本王国の兵士A>

「大日本地底帝国が神聖日本王国の政府転覆を狙い、新興宗教まがいのテロ組織であるモグラ教団を支援してかくまっている?」


<神聖日本王国の兵士B>

「ゆえに国家のため軍は大帝を叩け、と」


 ため息を漏らす神聖日本王国の軍人たち。


<神聖日本王国の兵士A>

「ジャレスに奪われた実験体を手土産にして、大帝の傘下に入るという軍の計画が進行中だというのに、時代錯誤の大紫大王は一体何を考えておられるのか? 今や大帝ではなく、覇権主義を掲げるムーこそが我々の敵に決まっているだろう」


<神聖日本王国の兵士B>

「不満があれど、今はまだクーデターをするにも時期尚早だ。あちらに味方する王党派の将校もまだ残っているからな。こちらの力になってくれる同志を確実に増やさねばならん。今回ばかりは従うしかなかろう」


<神聖日本王国の兵士A>

「……くっ、あと一歩でも早く大帝に下れていれば! ますますジャレスから実験体を奪えなかったことが悔やまれる!」





 大王の宣戦布告に従って開戦する神聖日本王国軍。

 それを受け、大帝軍の参謀本部で会議。


<大帝の兵士>

「閣下。神聖日本王国より、我が大帝に対する宣戦布告が申し渡されました」


<八島>

「そうか。神聖日本王国が我々に宣戦布告したか……。ならば敵から送られた免罪符、ありがたく受け取ろうではないか。……殺せ、つぶせ、破壊せよ。容赦なく敵を蹴散らせ」


<大帝の兵士>

「ですが、陛下からのお言葉は?」


<八島>

「ただ一言、すべては参謀本部に『任せる』と承っている。くだらない王権をふりかざすあちらの大王と違って、我らが皇帝陛下様は度量が深く優れた判断力をお持ちでいらっしゃる。存分に任されようではないか」


<大帝の兵士>

「は!」





 神聖日本王国軍、中部地域の大艦隊が大帝と戦うため出撃。


<神聖日本王国の司令官>

「ついに目覚めのときが来たのだ。そう、新しい神話の目覚めが……」


<神聖日本王国の兵士>

「司令、ですが相手は大帝ですよ? 我々はムーとの戦争に備えていたはずですが……」


<神聖日本王国の司令官>

「軍人は己の信念を愛する前に、上から降ってきた命令を胸に刻まねばならんのだ。そして、刻んだ以上はその命令を全うする。それを忘れては軍人として失格だぞ」


<神聖日本王国の兵士>

「は。失礼いしました」


<神聖日本王国の司令官>

「わかったのなら上辺だけの謝罪ではなく、これからの戦闘で誠意を示すがいい。なにしろ、いよいよこの神聖日本王国軍の中部地域大艦隊が、初の実戦に臨めるのだからな」


 そして始まる神話日本王国と大帝の戦闘。


<神聖日本王国の兵士>

「敵の姿がレーダーに映らない? ミサイルのロックオンもうまく機能しない? 噂には聞いていたが、まさか、これほどとは……」


<大帝の兵士>

「驚くがいい。かつての零戦は文字通りその存在がゼロとなり、ついには心霊と呼べるほどになった。もはや凡人には姿を捉えることすらできぬ、最強の霊戦となったのだ!」


<神聖日本王国の兵士>

「ええい、最新鋭の霊戦部隊といえど、ただの戦闘機集団だ! 神聖日本王国軍の神話のごとき巨大戦艦を前に、あっけなく散るのが関の山だ!」


<大帝の兵士>

「愚かな巨体など、時代錯誤も甚だしい! 地上の歴史を勉強しておくんだったな!」


 神聖日本王国の巨大戦艦を相手に、最新鋭のステルス性の霊戦部隊で勝利する大帝。





 敗北した神聖日本王国軍は、大王の意向を無視して秘密条約で大帝との不可侵条約を結ぶ。


<大帝の兵士>

「司令官殿、神聖日本王国軍の指揮官を連れてきました」


<神聖日本王国の司令官>

「……敗軍の将とはいえ、私の扱いはよろしく頼みたいものだな」


<大帝の司令官>

「こちらこそよろしく頼みたいものだ。早速だが、貴君らの投降を一つ返事で受け入れていただこうか。手荒い真似はしたくない」


<神聖日本王国の司令官>

「投降ですと? ご戯れを。こうして初戦に敗北した以上、我々神聖日本王国軍は、それ以上の返事を用意しております」


<大帝の司令官>

「……どういうことだ?」


<神聖日本王国の司令官>

「我が軍の全面的な無条件降伏と、地底日本両国の不可侵条約及び軍事同盟。これをぜひ、この場で秘密裏に締結していただきたい」


<大帝の司令官>

「……その言葉、そちらの大王のものとは思えないな」


<神聖日本王国の司令官>

「無論、これはクーデターの足がかりであります。先ほどの戦闘で邪魔な王党派が何人も消えてくれましてね。あとは約束していただければ、こちらに回している軍の戦力を国内に向けることができますので」


<大帝の司令官>

「ほほう。勝者の我々を踏み台にするか」


<神聖日本王国の司令官>

「これはとんだご無礼を。ですが、それは勘違いです。決して踏み台になどいたしません。勝者であるあなた方に、ぜひ敗者の我々を引き上げていただきたいのです」


<大帝の司令官>

「本当によいのか?」


<神聖日本王国の司令官>

「はい。よろしければ地上まで、ね」


<大帝の司令官>

「なるほど、そこまで見越しているのか。面白い、よかろう」

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