第3話「未来フロア」
開いたエレベーターの表示には、数字じゃなく文字が出ていた。
【未来】
「……帰っていいか?」
誰に言うでもなく呟いた。
返事はない。
だが背後で、バタン、と入口の扉が閉まった。
振り返る。
開かない。
「おい」
ガチャガチャとドアノブを回す。
びくともしない。
スマホが震えた。
『初日研修を開始します』
『エレベーターへお進みください』
「いや、だから何なんだよ!」
当然無視した。
だが次の瞬間。
未来表示が更新された。
【42歳:年収1億6500万】
↓
【42歳:年収1億5200万】
「……え?」
また減った。
「はぁ!?」
俺は慌ててスマホを顔に近づける。
「待て待て待て、なんで減るんだよ!」
しかも下に小さな文字が増えていた。
【査定項目:行動力 −12】
「会社かよ!」
思わず叫んだ。
何だこのクソシステム。
未来を人事評価みたいに扱うな。
しばらく睨んでいたが、数字はさらに減り始める。
【1億5100万】
【1億5000万】
「……くそ」
負けた気がした。
でも負けたくないのに身体は勝手に動く。
俺はエレベーターへ乗った。
扉が閉まる。
上にも下にも動いてる感覚がない。
なのに耳だけがキーンとした。
スマホの電波は圏外。
時刻表示は「――:――」。
嫌な汗が出る。
そして数秒後。
チン、と音がした。
扉が開く。
そこはオフィスだった。
いや、オフィスなんだけど……
おかしい。
人がいる。
何十人もいる。
スーツ姿でパソコンを叩いてる。
電話してる奴もいる。
会議してる奴もいる。
でも全員――顔がなかった。
「……っ」
目も鼻も口もない。
のっぺりした皮膚だけ。
なのに普通に働いている。
カタカタカタ。
カタカタ。
カタカタ。
気味が悪い。
すると、一人が立ち上がった。
黒いスーツ。
長身。
そいつだけは顔があった。
笑っていた。
「ようこそ」
三十代後半くらいの男だった。
整った顔。
妙に安心感のある笑顔。
でも目だけ笑っていない。
「私は案内役です」
「……案内役?」
「あなたは採用されました」
男は笑った。
「相沢蓮司さん。未来を変更する仕事へ」
「……は?」
俺の頭が止まる。
未来を変更?
何言ってんだこいつ。
すると男は俺に一枚の紙を渡した。
そこにはたった一行。
【最初の仕事:一人の未来を不幸にしてください】
「…………え?」
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