第2話「勤務初日」
夜中二時。
インターホンが鳴っている。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
「……誰だよ」
酔いが一気に冷めた。
こんな時間に訪ねてくる知り合いなんていない。
スマホを見る。
午前二時三分。
いや、絶対おかしいだろ。
恐る恐るモニターを確認する。
誰も映っていない。
「……は?」
故障か?
だが次の瞬間。
スマホが震えた。
知らない番号からメッセージ。
『初日です。遅刻しています』
俺は固まった。
『勤務先へ向かってください』
『制限時間:残り29分』
「……何だこれ」
いたずら?
でも妙だった。
送信者のアイコンがない。
電話番号もない。
ただ真っ黒だった。
その下に地図が表示される。
目的地は駅前。
徒歩二十三分。
「気持ち悪……」
無視して寝ようと思った。
だがスマホがまた震えた。
『警告』
『勤務態度は未来査定に影響します』
そしてその下。
俺の未来が更新されていた。
【42歳:年収2億】
↓
【42歳:年収1億6800万】
「え?」
俺は目を疑った。
下がった?
何もしてないのに?
さらに数字が減る。
【1億6700万】
【1億6600万】
「ちょ、待て待て待て!」
減ってる!
リアルタイムで減ってる!
慌てて靴を履いた。
ジャージのまま外へ飛び出す。
深夜の街は静かだった。
走りながら頭の中はぐちゃぐちゃだった。
何なんだよこれ。
意味わからん。
意味わからんけど……
減ってる!
年収が減ってる!
「俺何やってんだ……!」
三十五歳無職が深夜に全力疾走。
客観的に見たら終わってる。
駅前へ着いた頃には息が切れていた。
スマホを見る。
【42歳:年収1億6500万】
「……止まった」
目の前には古びた雑居ビル。
昼でも入らないような建物だった。
地図はここを示している。
「嘘だろ……」
入口を見る。
看板なんて何もない。
だがガラス扉にだけ、小さな文字があった。
【Future Career】
背筋が冷たくなった。
あった。
本当にあった。
扉が――勝手に開いた。
そして中から声がした。
「相沢蓮司さんですね」
受付には誰もいない。
なのに声だけが聞こえる。
「勤務初日、お待ちしておりました」
その瞬間。
エレベーターが勝手に開いた。
行き先表示はなかった。
ただ一文字だけ。
【未来】
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