武闘祭編
武闘祭編 14話 竜鉱技術研究機関オーズ
私達は馬車に乗っていた。イグナイトに手配してもらったものだ。
青い空が眩しく、陽が暑く、低品質なサスペンションで腰が痛い。今度自分用に作ろう。冷房もつけてね。
「先輩、オーズというのはどういった組織なのでしょうか」
同乗者のギルが挙手した。今の私は教師なので質問を許した。
「竜鉱技術研究機関オーズ。この国最高の研究機関だね。王城の地下にあるよ」
「もう少し詳しくお願いします……」
「はいはい、えっとね。
「1000年……途方もないですね」
バルムンク王国の英雄、ジークフリート・バルムンクが赫竜ファヴニールを討伐して1114年。オーズはその当時から存在しているとされ、その研究の歴史は長い。
彼らが制作するアーティファクトは王国騎士団が用い、国防の要の一つとなっていた。
「武闘祭の対抗戦は、オーズのアーティファクトを持った王国騎士団との試合だね。ルールは集団戦ってこと以外は決闘と変わらない。分かった?」
「あの、学生と対抗戦をするような相手ではないのでは……?」
「そうだね。うん」
少なくとも学生に課される条件ではない。
王国騎士団は当然ながら王国の最高戦力だ。そんな騎士団に最高研究機関のアーティファクトを持たせるなんて、国王陛下はかなり鬼畜らしい。
ただ、分からない話ではない。
ピエロ先生は、これは学園における技術科の立場をより良くする為の行事になると踏んでいるらしい。
事実、派手な戦術科に比べて技術科は地味で生徒数も少ない。
そんな技術科に活躍の場を与えて、人を増やそう……という目論見かもしれないらしい。
悪い話では決してない。私のアーティファクトの活躍の場ができるのは素晴らしいことだ。
それに、私の実力や技術力を見せつけることができれば特別単位が大量にもらえる。
ならばやるしかない。私の大切な工房の為に。
そう息巻いていれば、そのテンションに触発されたのかギルの尻尾【グレイプニル】が左右に揺れていた。可愛い。
「……今更だけど、どう? 【グレイプニル】の感想は?」
「! そのことですが、先輩……」
ギルは席から立ち上がった。馬車の中だから危ないはずだが、体幹が強すぎてよろけていない。
そしてギルは、私の足元に跪いた。
「先輩。僕はあなたのアーティファクトに感動しました。アーティファクトとは、ただの道具ではない。人の身体の一部にすらなり得るものです。決闘では戦う度に心が震え、血が踊って……」
落ち着いた声色で語ってはいるが、尻尾は揺れまくっている。
【グレイプニル】はギル自身が動けば当然動く他、ギルの意思でも動くように調整しておいた。
そもそも《
「これは僕の人生観を大きく変えるものでした。故に僕は……」
「話長いから要約して」
「はい。僕はエナ先輩の騎士になろうと思います」
「要約しないでちゃんと説明して」
長話をすっ飛ばした弊害が早速出た。どういう経緯になればギルが私の騎士になるんだ。
「愚かだった僕を、先輩……いいえ、マイロードが導いて、正してくださった。僕はそれに敬意を表し、この忠誠を誓うと決めました。是非に、お受け取りください」
「いやいやいやいや、私はアーティファクト作っただけだから」
「だけとは何ですかだけとは! この尾だけでなく、この耳当てまで作ってくださった! これは僕の人生を変えたと言って間違いありません!」
ギルが決闘の時もつけていた耳当て。あれは雑音を遮断するアーティファクトだ。五感の鋭すぎるギルをサポートするものであり、集中力の阻害を阻止することができる。集中力さえ維持できれば、ギルでも十全に術式構築することができる。
「あれから誰の悪口も陰口も聞こえないんです! それだけで僕の学園生活は何倍にも楽になりました……本当に感謝しているんです。どうかこの忠誠を受け取ってください」
「いや要らないんだけど……私のアーティファクト使って活躍してくれればそれでいいから」
「アーティファクトを使わせていただいている以上は僕は先輩の騎士であり続けます」
「ねぇなんで頑固なの?」
ギルは跪いたまま動こうとしない。その目は熱を帯びている。もはや炎というよりマグマのような熱い熱を。
こんなところにその熱を込めないで欲しい。できれば決闘で発揮して欲しい。
「帝国に騎士という風習はありませんが、もし騎士になれば何でもお手伝いいたします。戦いでも護衛でも見張りでも、買い出しでも」
「……え、ほんとに何でも?」
「はい、何でもお任せください」
何でも。ギルはそう言い切った。それはとても魅力的な言葉だということを私は知っている。
これはパシリだ。手下と言い換えてもいい。もちろん法外な使い方をするわけではないが、従順に従ってくれるならば条件は悪くない。
「……分かった。ギルを私の騎士に任ずる。私の命令は絶対。いいね?」
「!! イェス、マイロード」
「それやめて。マスターとか、ご主人様とかにして」
「はい、ご主人様」
騎士らしくクールにまとめたが、尻尾はぶんぶんだった。可愛い。私のアーティファクトが。
◇
馬車が目的地に到着した。場所は王国の最も外にあるスクルド区、その南側。
王城から最も遠く、そして最も人口の多い場所でもある。
「嬢ちゃん! フレイヤ学園の学生さんだろう! うちの肉なんてどうだい!」
「お野菜も持って行きな! 朝取れたばかりだよ!」
「おねーちゃんあそぼー!」
ただ歩いているだけで各所から声がかかる。学園の学生とはこれほどまでに人気者なのか。
ギルなんかは尻尾があることで子供に遊ばれている。子供にも人気なのだよ、私のアーティファクトは。
「ギル、お昼買ってくるから遊んでていいよ。正午に門の前で待ち合わせね」
「は、はい!」
ギルが遊んでいるのを傍目に、市場へ向かった。
市場でサンドイッチを購入した。ギルは肉が好きなので肉の沢山入ったのを二つ選んだ。
二つを紙袋に入れて運びつつ、正午まで適当に街の中をうろつく。
「……」
『懐かしいね。10年も経ったんだね』
「……あの頃よりいくらか明るいけどね」
懐かしい。そんな気持ちは
私が10年前のスクルド区南部暗竜侵攻に巻き込まれて、それから避難した場所がここだ。
あの頃から初めて訪れたここは、随分と綺麗になっている。
あの時は人々が逃げ惑い、混乱しかなかった。火が巡り、悲鳴が満ち、恐怖ばかりが街を支配していた。
だが、今は違う。10年も経てば、人々は立ち上がれる。普通の人々は。
「っ……」
今の街並みは平和そのものだ。子供達が見知らぬ学生を遊びに誘えるほど、人を信用して幸福な時間が当たり前のように流れている。
だがそれも、ここが城壁の内側だからだ。
誰も本物を経験していないからだ。
噴水の中央に綺麗な彫像が立っている。英雄ジークフリートの像だ。あの頃はなかった。
視界が暗転と明転をくり返す。
燃えるスラムの建物の熱気。
子供の悲鳴。
無数の足音。
そして、
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……っく……」
膝が落ちる。頭の中がかき回されるような感覚。
頭が痛い。
「うぅ……ハァ、ハァ……さい、あく……」
『休もう。噴水の近くなら涼しいよ』
「……うん」
噴水の縁に座り、深呼吸。
そうだ。皆本物を見たことがないから平然としていられるんだ。
……落ち着け。目の前にその本物がいるわけでもない。ただ思い出してしまっただけだ。落ち着け。
「……門の前の約束だったよね」
今一度深く息を吸って吐いてから、約束の場所へ向かった。
―――――
後書き
お読み頂きありがとうございました。
割とあっさりとした回にはなってしまいましたが、ご愛嬌ということでお願いします。ギルも騎士になりましたし、過去のトラウマも垣間見えましたし。
少しでも面白かったり、続きが気になったりしてくださると嬉しいです。
是非作品フォローや⭐︎⭐︎⭐︎評価、お願いします。
次回、『眷属』
スクルド区へやってきた目的を果たします。
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